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帽子から飛び出した死/C.ロースンDeath from a Top Hat/C.Rawson |
1938年発表 中村能三訳 ハヤカワ文庫HM30-1(早川書房) |
ロースンはこの作品を書くにあたって、友人であるカーの『三つの棺』をかなり意識しているようです。例えば、『三つの棺』でのフェル博士に対抗してマーリニが「密室講義」を行っているのはもちろんのこと、(以下伏せ字)同じように犯人の予期しない降雪によって不可能状況となってしまうこと、さらに本作中でたびたび“鏡”(『三つの棺』をお読みになった方はおわかりでしょう)に言及されていること(ここまで)などに表れていると思います。 この作品のユニークな特徴は、密室事件でありながら、それを構成する手段があまり重要視されていないところでしょう。実際に使われた手段は、あくまでも可能性の一つとしてではありますが、中盤ですでに明らかにされてしまっています。密室は単に不可能性を強調するために採用されているにすぎません。しかし、自己顕示欲のための密室であることが逆に、いかにも奇術師の犯罪といった感じで、説得力を生み出していると思います。いわゆる“密室のための密室”ではありません。また、密室を構成する複雑な手順が中盤で説明されているために、解決場面が比較的すっきりしたものになっていることも見逃せません。 ということで、中心となるのはフーダニットですが、なかなかよくできていると思います。デュヴァロが密室トリックを実演した際に、知らないはずの鉛筆の印をハンカチに残してしまったこともうまい手がかりですし、“タロット”の腕時計の手がかりや、タロットがデュヴァロの吹き替えをしていたこともさりげなく隠されています。冒頭に書かれているように、容疑者のうち一人だけにしかできなかったことを見ぬくことができれば犯人がわかるようになっています。 タクシーからの“タロット”の消失など、奇術の原理を利用した犯行も見事です。自らが奇術師であるロースンならではの傑作です。 2000.05.15再読了 |
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