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黄金の灰/柳 広司

2001年発表 (原書房)

 殺人事件は(以下伏せ字)C.ドイル「まだらの紐」(ここまで)、黄金消失の方はE.A.ポー「盗まれた手紙」と、有名な古典ミステリのネタが多少のアレンジを加えて使われています。シュリーマンの推理では、この“英語で書かれたミステリをなぞるように犯行が行われている”という事実が、犯人を特定する重要な手がかりの一つとなっています。
 ここまででも十分にうまい使い方だと思うのですが、この作品では、犯人のヨナ修道士がこれらの作品を読んでいなかったという驚愕の事実が提示されます。さらにその上で、独自に思いついた犯行方法を神の啓示と考えるヨナ修道士に対して、それがすでに上記のミステリに示されていたという事実が、神の奇蹟を否定する根拠として使われています。
 つまり、古典ミステリのネタを使うという行為に二重三重の意味が与えられているわけで、非常に見事な取り入れ方だと思います。

 この作品では、犯人であるヨナ修道士の動機も秀逸です。奪うためではなく、消し去るために黄金を隠すという逆転の発想も見事ですし、そもそもの原因がホメロスの『イリアス』そのものにあるというのも非常によくできていると思います。

2002.12.27読了

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