不自然な死/D.L.セイヤーズ
Unnatural Death/D.L.Sayers
1927年発表 浅羽莢子訳 創元推理文庫183-04(東京創元社)
まず、殺人トリックの実現可能性については「酔胡王」さんの感想をご覧ください(残念ながらリンク切れ)。実質的にはほとんど不可能のようですね。
さてこのトリック、殺人の痕跡が見つからないと称するだけあって手がかりがまったく見つからず、どのように解決されるのかというところに注目していたのですが、バイクのエアロックという伏線には驚かされました。もちろん直接の手がかりというわけではないのですが、事件とはまったく関係なさそうなさりげない描写でありながら、真相を大胆に暗示しているという、実によくできた伏線だと思います。
そして最後に決め手として現場を押さえる場面の、“「その通り」パーカーは意味ありげにウィムジイにうなずいた。「この中には――何も入っていない」”
(360頁)という一文が鮮やかな印象を残します。
ちなみに、「ANOTHER WORLD」(あやさん)の感想(こちらもリンク切れ)を拝見するまで気づかなかったのですが、カバーイラスト(左下部分)がネタバレ気味ですね。
動機については、予想される遺産絡みということでさほどの驚きはありませんし、法律関係は面白くはあるとはいえ日本人にはわかりにくい部分もあります。が、被害者がもともとホイッテカー嬢に遺産を与えるつもりだったにもかかわらず、遺言状を書くのを嫌がったがために殺されてしまうという、大いなる皮肉が印象的です。
犯人はかなり早い段階から見え見えですし、露骨で単純すぎるアリバイ工作は脱力ものですが、その裏に隠された一人二役の罠には脱帽です。ピーター卿&パーカー警部とクリンプスン嬢との二手に分かれて捜査が行われるという構成が、このトリックの成立に一役買っているところも見逃せません。
2005.10.13読了