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理由あって冬に出る/似鳥 鶏

2007年発表 創元推理文庫473-01(東京創元社)

 “フルートを吹く幽霊”のトリックはあまりに“お手軽”すぎる感がありますが、“壁男”のトリックも多少手間がかかっているとはいえ、さほど面白味のあるものとはいえません。しかし、雪が降っている間は実行できなかったという手がかりや、ゴキブリの脚(!)をもとにエアコンが使われたことを導き出す推理などは、なかなか面白いと思います。

 そして、第一の“犯人”である東と第二の“犯人”であるミノによる二段構えの構図がよくできていて、“お手軽”な“フルートを吹く幽霊”のトリックをいつまでも引っ張ることなくあっさり解き明かし、次いで第一の“犯人”の正体とその動機の解明、さらに“壁男”のトリックの解明、そして第二の“犯人”の正体とその動機の解明という風に、小ネタの組み合わせを逆手に取ったかのような展開で読者の興味を引き続けるところが巧妙です。

 東の“犯行”をうまく取り込んだミノの計画もよくできていますが 特に一日目の夜の出来事に関して自分と葉山君の役割を入れ替えて吹聴するという、(葉山君からみた)ミノのキャラクターに合致したエピソードにしっかりと意味が与えられているところが秀逸です。

 探偵役の伊神さんが指摘する“『怪談』を『怪奇現象』にしてしまった”(220頁)というミノの致命的な失敗は、ミステリとしては難点といわざるを得ない部分もあるかと思いますが、それがミステリにおける“幽霊の出現”というネタの弱点――表面的な現象とは裏腹に人為的なトリックによることが明らかであるがゆえに、読者を十分に引きつけるほどの魅力に欠ける――のいわば“裏返し”になっているのが興味深いところです。

 ミノの動機は芸術棟に隠れ住む豊中の存在を隠すためだったわけですが、死んだことになっている豊中と幽霊騒ぎの組み合わせが絶妙で、幽霊騒ぎと直接関係のない「プロローグ」と幕間(126頁~127頁)が(まったくとはいわないまでも)思いのほか浮き上がってみえないのもうまいところです。

 そして、ミノと豊中の心温まるエピソードで幕を閉じるかと思いきや、それをブラックに反転させる結末がお見事。ミノにとってはあまりにも苦い結末ですが、伊神さんの説教(223頁~224頁)を考えれば、結果オーライといえなくもないのではないでしょうか。

2009.03.19読了