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ミステリ・ウィークエンド/P.ワイルド

Mystery Week-end/P.Wilde

1938年発表 武藤崇恵訳 原書房ヴィンテージ・ミステリ(原書房)

 まず「第1章 H・B・シモンズの手記」では、記述者のハンクが、次々に怪しげな行動をみせるドウティ氏にあからさまに疑いを向ける一方、友人であるハウ先生のことは露ほども疑っていないのが巧妙で、(物語の最後まで徹底されていないとはいえ)同じく古典の某作品*1を先取りしたような仕掛けといってもいいかもしれません。

 続く「第2章 H・W・ハウ医師の手記」は、犯人自身の口述となっているのですが、“メイプル氏”との会話の様子(50頁~51頁)など最小限の嘘はあるものの、ハウ先生自身による犯行のタイミングを巧みに回避してある上に、(ハウ先生のあずかり知らないところで)“もう一人の犯人”である“メイプル氏”によるハンク殺しが起きたことで、ハウ先生に疑いを向けにくくなっているのが秀逸です。

 加えて、ハンクが遺した手記がクローズアップされることで、“ハンク殺しの原因が手記にある”という“偽の構図”が作り出されている*2のもうまいところで、「第3章 ジェド・アシュミードの手記」でハウ先生が実際に襲われたことでその構図が補強され、ハウ先生のアルスター・コートによる人違いというハンク殺しの真相が隠蔽されているのがお見事です。

 もっとも、「第3章」の最後まできたところで、殺されたはずの“メイプル氏”が生きていたことが明らかになった途端に、“メイプル氏”の死亡を確認したと称するハウ先生の嘘が露呈してしまうのですが、死亡推定時刻の嘘を示す懐中電灯の手がかり、そしてハウ先生が偽医師であることを示す消毒薬の匂いの手がかりは、いずれもよくできていると思います。

 ハンクやジェドに疑われていたドウティ氏がレッドへリングであることは見え見えですし、「目次」をみると最後に「第4章 フィリップ・フェニモア・ドウティの手記」があることから、探偵役をつとめることまで予想できるかと思いますが、ドウティ夫人が意外な探偵役として活躍をみせるのが愉快ですし、“たまには勝つこともある”(194頁)という結末がしゃれています。

*
「P・モーランの観察術」
 ガムの指紋に関するマクレイ夫人のはったりが見事で、“主任警部”までが引っかかっているのが愉快。そして、モーランが最初に名前を挙げた――そして即座に否定された(240頁~241頁)――人物が犯人という、まぐれ当たりの“意外な犯人”には、苦笑するよりほかありません。

* * *

*1: (作家名)カーター・ディクスン(ここまで)の長編(作品名)『貴婦人として死す』(ここまで)
*2: ハウ先生自身によるミスリード――“先生はハンクが行方不明になってからの手記を書いた。だからつぎに殺されるのは自分だと思いこんでいるのだ。”(103頁)――が一役買っているのも見逃せないところです(“メイプル氏”に狙われる心当たりがあるため、怯えていたのは事実でしょうが)。

2016.04.24読了