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館島/東川篤哉 |
2005年発表 ミステリ・フロンティア(東京創元社) |
まず、館の構造には少々問題があると思います。いかにも建築許可が下りなさそうなのはまあいい(笑)としても、電気・ガス・水道の配備などの点で、物理的に実現が不可能に近いというのが難点です。電気は(螺旋階段とフロア部分を完全に別系統にした上で)自家発電、ガスはボンベ(プロパン)の使用などである程度何とかなるかもしれませんが、水回り(給排水)に関してはうまい解決策が見当たりません。 仮にこれらの問題がクリアされたとしても、通常の建築物とかけ離れた構造となるのは間違いないのですから、メンテナンスの際に問題が生じることになります。そのため、管理人の青柳自身が館の秘密を知らされているか、あるいは秘密を知る人物に常時連絡が取れる状態(*1)でなければなりません。そう考えれば、和臣以外にも館の秘密を知る人物が存在し(*2)、しかも青柳経由で捜査陣がその人物にたどり着くことは可能ですから、十文字和臣の死が謎のままになっているのは不自然だということになるのではないでしょうか。 また、トリックが非常にわかりやすくなっているところも残念です。図面が出てきた時点で館(の少なくとも一部)が回転しそうだということは予想できますし、隆行が部屋を間違えた場面で螺旋階段と各フロアが上下にずれているのを見抜くのもさほど困難ではないでしょう。 しかし、館が建てられた理由は非常に衝撃的です。前述のように“回転”と“上下動”を見抜くことができたとしても、館全体が巨大なネジとナットだという真相にまで思い至る読者はほとんどいないのではないでしょうか。あまりに巨大すぎて見えないという逆説的な状況もよくできていますし、細かいところでは“十文字”という名字がミスディレクションになっているのも見逃せないでしょう。いずれにせよ、この無駄に壮大で馬鹿馬鹿しい(←ほめ言葉です)真相には、あっぱれという他ありません。また、瀬戸大橋の完成前という時代設定も効果的ですし、さらにそれが土地疑惑というダミーの動機につながっているところも見事です。 時計のアラームの設定から隆行が部屋を間違えたという結論を導き、アリバイに関する嘘を証明しつつ、シーツという証拠に着目するという、犯人特定の手順もよくできていると思います。
*1: 青柳がメンテナンスにタッチせず、別の人物(例えば十文字和臣の信頼できる部下など)に任される場合。
*2: そもそも、館の建築に関わった人々は秘密を知っているはずですし、たとえ和臣に堅く口止めされていたとしても、和臣自身の死に際して口をつぐんだままとは考えにくいのですが……。 2006.05.30読了 |
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