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蜃気楼・13の殺人/山田正紀

1990年発表 光文社文庫 や6-2(光文社)/カッパ・ノベルス(光文社)

 まず、マラソンコースから13人が消失した謎自体については、“全長10キロの密室”という売り文句の割には、拍子抜けといわざるを得ません。その動機についても、ごくありふれたものといっていいでしょう。しかし、事件がここから“栗谷一揆騒動諸控”の記述と次第に重なっていく展開がユニークです。

 コースから姿を消した人数が13人だったのは偶然としても、“光井陽二郎”の死体が木の枝に突き刺されるまでの経過は、なかなかよくできていると思います。このあたり、坂道を転げ落ちていくような岡村の苦境が非常に印象的です。

 終盤、佐木がトラクターの下敷きになって死んでいる場面は、島田荘司ばりの強引なトリックかとも思わせますが、より現実的な解決で意表を突きます。しかし、“栗谷一揆騒動諸控”の記述を忠実に再現しようとする村の老人たちの行動には、ある種の“狂気の論理”を感じさせるものがあり、この作品の幻想性を高めるのに一役買っているといえるでしょう。

 そして、その“栗谷一揆騒動諸控”自体が偽書であったという真相が、事件全体に蜃気楼のようなイメージを与えています。蜃気楼が姿を消すとき、山田正紀の構築した幻想世界もまた、見事にその幕を下ろしたといえるのではないでしょうか。

2000.12.14再読了