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翼とざして/山田正紀

2006年発表 カッパ・ノベルス(光文社)

 紗莉が死んでいないことは、少なくとも物語がある程度進んだ段階では予想できるでしょう。例えば、嶋田が海蝕洞で死体を発見した場面(177~179頁)、地の文に一度も“紗莉の死体”と書かれていないのはかなり目立ちますし、大澤の話から仙道旭山の愛人の死体が島に持ち込まれたことも推測できます。が、“綾香が紗莉を突き落とした”手段が謎のまま残され、興味を引きます。

 その真相は、やや拍子抜けの感もありますが、うまく組み立てられたトリックではあると思います。例えば、サイズが人間に近いアホウドリを使うための(アホウドリがいてもおかしくなさそうな)場所の選定や、綾香が書いた“手紙”の内容(“わたしが鳥迷島で誰と何をしたいのか、どんなことを願っているのか”(115頁))とその行方(海流の逆転)、さらには綾香がビンに挿したハイビスカスの花”を見て“懐かしいと思った”こと(128~129頁)などがうまく組み合わされて成立しているところがよくできています。

 そもそも、ふとした思いつきで仕掛けたトリックがたまたまうまくいったということなので、やや怪しげなトリックでも問題はないでしょう。気になるのはむしろ、登場人物たちの“狂気”を生み出している有毒ガスの存在と効果で、少々ご都合主義に感じられます。

 紗莉の動機は若干弱いようにも感じられますが、当初は殺意などなく、有毒ガスの影響もあってエスカレートしていったのですから、個人的には十分に納得できるところです。そして、ラストに配置された「カワウソと蠍」の寓話の別バージョンによって強調される、狂気と紙一重の愛が印象的です。

 その他、池田亮子の眼鏡が壊された理由や、瀕死の黄国明が殺された理由なども面白く感じられるところです。

2006.05.21読了