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金魚の眼が光る/山田正紀

1990年発表 徳間文庫 や3-19(徳間書店)/(徳間書店)

 ネタバレなしの感想では、“重なりの構図”というわかりにくい表現をしていますが、具体的には以下のような点を指しています。

1.時代
 作中では、明治三十七年(1904年;日露戦争)と昭和十二年(1937年;日中事変)が、よく似た世相を通じて重ね合わされています。そして、実際に犯人の頭の中で二つの時代が重なってしまった(と思われる)ことが、“なぜ三十年以上も経ってから犯行に及んだのか?”という疑問に対する答になっています。時代の雰囲気の共通性が、事件の発端となっているのです。
2.人物
 白雨に生き写しという淳一郎の出現も、(犯人にとって)二つの時代が重なり合う原因になっています。また、火事の場面で犯人は、淳一郎と夕子の姿を白雨と自分に重ね合わせています。
3.動機
 犯人の主な動機は白雨の仇討ちですが、淳一郎に財産を残す上での邪魔者を排除するという目的もあったのではないかと考えられます。つまり、稔と守は二重の動機によって殺害されているのです。
4.殺意
 淳一郎に対する稔の殺意の上に、犯人の稔に対する殺意が重ね合わされ、覆い隠されているといってもいいでしょう。これは、次の“アリバイ”にも関わってきます。
5.アリバイ
 被害者となった稔が行っていたアリバイ工作が、結果的に犯人のアリバイを証明することになっています。
 また、淳一郎のアリバイになっている薪作りが、同時に犯人のアリバイにもなっています。
6.見立ての意味
 犯人の意図は、稔殺しにおける危険な手がかりを隠すというものだったわけですが、この見立てはまた白秋の童謡を冒涜する行為でもあるわけで、白秋に脅迫状を送っていた犯人の心理を考えれば、一石二鳥ともいえるものだったのではないでしょうか。
7.解決
 事件の真相は公にされることなく、霊太郎による“偽の解決”で隠されています。
8.冒頭の独白
 ラストの独白は明らかに犯人のものですが、冒頭(文庫版9頁~12頁2行目)の独白は北原白秋によるものとも読めるように書かれています。

 深読みしすぎであったり、牽強付会であったりするかもしれませんが、このような多重構造や多義性は、ある程度意図的だと考えてもいいのではないでしょうか。“横溝テイスト”を表の趣向とすれば、これは裏の趣向といえるのかもしれません。

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 「金魚」の見立てについては、犯人が第三の事件(守殺し)のみ意図的に行った、すなわち、当初は意図していなかったにもかかわらず、途中から他人の思いつきに便乗した、という真相が面白いと思います。そして、見立てを思いついた当人である夕子は、関係者の中でただ一人宮口の死体を目にしている上に、もともと白秋に心酔しているのですから、現場の状況を白秋の童謡と結びつけてしまうのも納得できます。

 しかし、第一の事件(宮口殺し)についてはいくつか疑問が残ります。まず気になるのは青酸カリの入手経路で、足腰の弱った(一人で出歩くことができない)造り酒屋の老女(家業が青酸カリと無関係)という立場では、青酸カリを入手するのは不可能に近いのではないでしょうか。さらにもう一つ、青酸カリは空気中に放置しておくと水酸化カリウム(だったと思います)に変化してしまうのですから、トリックが実現できるかどうか疑問です。当時の郵便事情はよくわかりませんが、柳河から東京まで届けられるには少なくとも数日はかかるでしょうから。

 加えて、第一の事件の際の霊太郎の行動も不自然です。白秋に迷惑がかからないよう、証拠の隠滅も辞さないというのは理解できないこともないのですが、夕子が警察に通報する際に詳しく状況を説明しなかったために大事にこそならなかったものの、通常ならば言い逃れはできないはずです。そこまでするのはあまりにも無茶にすぎるでしょう。

2000.10.25読了
2003.04.13再読了 (2003.04.15改稿)