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眼中の悪魔〈本格篇〉/山田風太郎 |
2001年刊 光文社文庫や23-1(光文社) |
一部の作品のみ。
- 「眼中の悪魔」
- “犯人”に悪意があったのはもちろんですが、その思惑を越えた皮肉な結果になってしまったところが何ともいえない印象を残します。しかし、仮に“犯人”が珠江の眼に隠された秘密を片倉氏に告げたとしても、片倉氏の疑念が消えることはなかったのかもしれません。
- 「虚像淫楽」
- サディズムとマゾヒズムが複雑に交錯する心理には、奥深い闇のようなものが感じられます。そして、それすらも虚像に対するものだとしたら……戦慄する他はありません。
- 「厨子家の悪霊」
- 弘吉の思惑、それを半ば利用した伊集院の思惑、そしてすべてを取り込んだ荘四郎の思惑……たび重なるどんでん返しを実現するための、精緻に組立てられた作者の企みが最も巧妙なのですが。
- 「笛を吹く犯罪」
- 手記という形式の非客観性を最大限に生かした怪作、というべきでしょうか。凝りに凝った妄想には脱帽です。
- 「恋罪」
- 殺人を犯しておきながら、黎子夫人に容疑がかかると“山田風太郎”に助力を求め、助力が得られないとなると自らトリックの一部を明かして夫人を救い、夫人に裏切られると彼女を苦しめるために自殺し、やがてその真相を明らかにする……徹底して自己完結している犯人像が印象的です。
- 「黄色い下宿人」
- 何といっても、シャーロック・ホームズと夏目漱石の邂逅というアイデアが秀逸です。
- 「司祭館の殺人」
- 目の見えない人物と耳の聞こえない人物。それぞれに対して仕掛けられたトリックが複合して、予期せぬ効果をもたらしているのが見事です。
アルセーヌ・ルパンが謎を解いているのは意外ですが、その正体を示す伏線がないところがやや難点でしょうか。
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- 『誰にも出来る殺人』
- 「女をさがせ」の山名殺しは“第一の間借り人”が手を下したもので、ひっくり返される余地はありません。しかし、副次的だったはずの刈部夫人襲撃の方がひっくり返ってしまうところは鮮やかです。
そして、人間荘に戻ってきた“第一の間借り人”が、二番目以降の事件の記録を読んで、それをひっくり返していくところが秀逸です。それぞれの事件に直接関わった人々にとっては事件はすでに決着してしまっているため、唯一彼だけが事件を掘り返して真相を見抜くことができるのです。
天使のような女性として描かれていた志賀嬢が、「淫らな死神」において悪魔の正体を現すという反転が非常に鮮やかです。しかし、彼女が死にかけた脇坂を救うことによって、(“第一の間借り人”にとって)天使とも悪魔ともつかない存在へとさらに変貌してしまうラストもまた、実に見事です。
2003.03.27読了 |
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