ウォリス家の殺人/D.M.ディヴァイン
This is Your Death/D.M.Devine
犯人の強固なアリバイの中心となっている、(おそらく)犯人自身の意図によらずに書斎の時計が十五分も進んでいたという現象は、少々不自然に感じられます。また、クリケットの“最後のセッション”が“そろそろ六時半”
(322頁)だというのは、手がかりとして少々不親切すぎるように思われます(*)。
一方、ジョフリーの日記を読んだというジェーンの嘘に関する手がかりは、地味ながらよくできていると思います。ジェーンが嘘を口にした場面(215頁)ではライオネルには言及されておらず、その後にそれを耳にする機会があったのは、確かにアンただ一人です。もっとも、“あのストライカーのおやじったら、あたしの言うこと、全然、本気にしてないみたいだったじゃない。だから、ちょっとつけ加えてやったのよ――ライオネル伯父さんのこととか”
(296頁~297頁)というジェーンの言葉からすると、告げた相手がストライカーだったようにミスリードされてしまいそうですが。
しかしもちろん最大の手がかりは、犯人がジョフリーに信頼されていたというものです。この手がかりは、序盤の“だが、アドバイスを受けてね――いまはもっといい計画をたてている。”
(48頁)という台詞で提示されているのですが、それがモーリスとカズウェル警視とのやり取り(167頁~168頁)の中でもう一度クローズアップされているのがすごいところ。にもかかわらず真相が隠されているのは、(いかにぎくしゃくした関係ばかりとはいえ)ジョフリーがそこまで他人に心を許していなかったことが把握しがたいためで、ジョフリーの人物像が明確になる終盤になって初めて重要性が見えてくる手がかりといえるかもしれません。
それにしても、ウォリス家の中でほぼ唯一に近い“信頼”――それが一方的なものであったにせよ――が、真相解明の決め手となるという皮肉はなかなか強烈です。物語の中で終始いやな人間関係が前面に出されているのも、それを読者に強く印象づけるという意図に基づいているように感じられます。
2008.09.06読了