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恐怖は同じ/C.ディクスン

Fear is the Same/C.Dickson

1956年発表 村崎敏郎訳 ハヤカワ・ミステリ626(早川書房)

 読む前には、現代の事件から逃れようとタイムスリップしても、過去でも同じような事件に巻き込まれて同じ恐怖を味わう、という実に皮肉な状況を意味する題名なのかと思っていましたが、終盤、二対一の変則的な決闘直後のフィリップの台詞もありますし、どちらの意味なのかはよくわかりません。しかし、いずれにしても印象に残る題名だと思います。

 現代の事件の記憶を失った状態で過去に放り込まれた主人公たちが、同じような事件に遭遇することで少しずつ記憶を取り戻していく場面はなかなか印象的です。しかし、現代の事件がカットバック的にしか描かれていないため、物足りなさも感じられます。やはり、現代でフィリップとジェニーが追われ、ジェニーが150年前に戻れたら……”という台詞を口にするところまでをプロローグとして描いてあれば、もっと効果的だったのではないでしょうか。

 事件の方ですが、阿片入りの葡萄酒と、目撃証言から犯人を絞り込むところはうまいと思いました。しかし、過去の事件の方は結局どうなったのでしょうか。ラストの、現代の事件と同じように証拠(すり替えられた葡萄酒の瓶)が発見され、解決していればいいのですが。ただ、証言の方は間に合わなかったようなので、あまり期待できないかもしれません。このあたりがやや不満です。

 この作品では、何といってもボクシングの場面が圧巻です。そして、ソーントン大佐との銃を使った決闘の場面もよかったと思います。あの展開には意表を突かれました。カーの描く活劇場面は、どれをとっても一級品だと思います。

1999.11.11読了
2002.04.11再読了 (2002.04.13改稿)