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死の館の謎/J.D.カー

Deadly Hall/J.D.Carr

1971年発表 宇野利泰訳 創元推理文庫118-13(東京創元社)

 ベルの音云々のあたりで、電気がトリックに関係している可能性には気がつきました。カーの伏線の張り方に慣れてきたのでしょうか。しかし、十七年前の事件での偽装(死体の移動や、銀の器のミスディレクション)に引っかかって、真相がわかるまでには至りませんでした。

 一方、隠し財宝の方は、家具が怪しいかなとは思っていましたが、金庫は見落としていました。ちなみにこのネタは蘇部健一『六枚のとんかつ』の中でも言及されています。

 一つ気になるのが、18章から19章の、セイラーによるサンフランシスコ大地震の再現シーンです。何か意味があるのでしょうか。特に意味のない場面にしては、セイラーの台詞があまりにも思わせぶりです。どうもよくわかりません。

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 ところで、この作品では犯人を指摘する過程に無理があるのではないでしょうか。殺人事件自体には直接の証拠がないようですから、タウンゼンドの正体がディンズモアであること、そしてサリーナの恋人であることは立証できるにしても、タウンゼンドは殺人については言い逃れが可能だと思います。

 そうなると、逮捕するためには犯人の自白が必要になるので、何らかの罠を仕掛けるしかないのではないでしょうか。私がギル伯父であれば、まず財宝のありかは伏せておき、関係者の前で財宝が邸の外側、壁の出張りの先にある可能性を示唆し、そしてその実地検分をタウンゼンドに依頼します。専門家だからという理屈をつけるのがポイントです。もちろん命に関わるので仕掛けは切っておかなければなりませんが、仕掛けには全然気づいてないふりをして強引にやらせようとすれば自白に追い込める可能性が高いのではないでしょうか。こういう手順の方が自然だと思うのですが。

 そもそも、デイヴ犯人説も否定できないのではないかと思います。邸に仕掛けられた機構による殺人である以上、邸の住人をまず疑うのが筋でしょう。動機は、近親相姦など持ち出す必要はなく、財宝でいいのではないでしょうか。実はもっと前に発見していたのを隠しておいて、サリーナの死後、ほとぼりが冷めた頃に明らかにする、という流れが考えられます。財宝が発見されていない段階では資産がほとんどないため、動機が不明になるというメリットもあると思います。

 17章最後の狙撃場面があるために、デイヴ犯人説は否定されているようにもみえますが、これもよく考えてみれば、単にデイヴが何者かに狙撃されたというだけで、サリーナ殺しを直接否定するものではありません。

1999.11.05読了