引き潮の魔女/J.D.カー
The Witch of the Low-Tide/J.D.Carr
1960年発表 小倉多加志訳 ハヤカワ文庫HM5-6(1191)(早川書房)
題名がいい雰囲気を出していると思います。カーはこの題名が気に入っていたようで、ラジオドラマでもこの題名が使われています。
メインの事件は“足跡のない殺人”ですが、脱衣小屋が二部屋あることを利用して、わずかな時間を稼いで死体移動を完了させたところはさすがだと思います。しかも、移動の際には足跡を残してもかまわないので、手順には無理がなく見事だと思います。しかしながら、この一種の密室状況が犯人以外の人物の行動によるもので、犯人にとっては予想外だったというところはやや残念です。
探偵役を精神科医にしたところはよかったと思います。証拠がない事件なので、心理的な分析を通じて真相をつかみ、的確に自白に追い込むしかなかったでしょうから、精神科医は適役です。
トウィッグ警部のしぶとさ、そして頑固さも、結果的にいい味を出していたと思います。そして、ガースとトウィッグの対決が物語にいい緊張感を生み出していると思います。