さよならダイノサウルス/R.J.ソウヤー
End of an Era/R.J.Sawyer
1994年発表 内田昌之訳 ハヤカワ文庫SF1164(早川書房)
ソウヤーは、序盤から登場する恐竜の謎に、一つの、SFならではの解答を与えています。
例えば、多孔質の骨の謎や移動距離の問題に、地球の重力が小さかったという解答を。そしてその理由として、火星人が活動しやすいよう、調節したものだという説明を。さらにそのために、ラストで調節機構が破壊されてしまうと重力が増加し、体の大きな恐竜が影響を受けてしまったという真相。実に見事です。
火星人を登場させた理由は、間違いなく低重力の根拠とするためでしょう。そしてその火星人が主人公たちと敵対することで、重力調節機構が破壊される理由も作り出しています。さらに火星人の正体がウイルスであることから、その記憶がクリックスに引き継がれるという綱渡り的な解決もされています。
それにしても、ブランドンが恐竜に話しかけられて唖然とする場面は爆笑でした。ブランドンも短い瞬間にいろいろなことを考えていますし。「どうして(How?)恐竜が口をきけるんだ」というブランドンの問いかけに、恐竜が「たいへんむずかしい」と答えるところ(ハヤカワ文庫版80頁)もおかしいです(ちなみに、これは原文の方が笑えます)。
しかし、白亜紀の冒険自体も一筋縄ではいきませんが、“境界層”が挟み込まれていることで、ミステリの叙述トリックのような雰囲気になっています。“記述者=犯人”といったところでしょうか。恐竜を絶滅させたのはブランドン自身だったのですから。
「時間旅行は可能でなければならない」という逆説はユニークです。チン=メイの考えによれば、人間原理の問題もこれで解決されることになるのです。タイムパラドックスが生じているようにも思えますが、よくわかりません。