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イリーガル・エイリアン/R.J.ソウヤー

Illegal Alien/R.J.Sawyer

1997年発表 内田昌之訳 ハヤカワ文庫SF1418(早川書房)

 ソウヤー自身による"On Writing Illegal Ailen""Readers' Group Guide"には、執筆の背景や、この作品に関するソウヤー自身の考えなどが掲載されています。興味のある方は、ぜひ一度お読みになってください。

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 殺人事件は当初から不可解な謎をはらんでいます。状況証拠からはハスクの容疑が濃厚ですが、彼が犯人だとすればその動機がまったく分かりません。物語が進行するにつれて、ハスクに関する描写も増えていきますが、その言動からは、たとえ異種族であれ理由なく殺害するような“人物”であるとは思えません。したがって、そこにハスクへの容疑に対する“合理的な疑い”が投げかけられる余地が出てくるわけです。フーダニットとしては物足りない面もありますが、ホワイダニットとしてはなかなかよくできているといえるでしょう。

 中盤以降物語の展開を引っ張るのは、事件の謎よりもむしろ、少しずつ明らかにされていくトソク族のユニークな生態です。左右相称でなく四放射相称であるというのは面白いと思いますし、それによって内臓が四つずつあるというのも妥当です(例えば、ウニは五放射相称で、卵巣は五個あります)。四本の“手”が“腕”と“足”に分化するのは納得できますが、前後の腕がさらに分化すること、そしてそれにより“善悪の拮抗”といった概念が生まれ得なかったことなどは、非常に面白いと思います。

 そして、その四つの内臓の問題、さらにハスクの脱皮の時期がずれていたこと、あるいは心臓の位置など、トソク族の生態が真相への手がかりとなっているところは、まさにSFミステリならではの面白さです。この、単に奇抜なだけではなく、物語に合わせてしっかりと考えられた異星人の設定は、非常に見事だと思います。

 すっかり裁判モードになっていたので、終盤で別の異星人が登場し、トソクに対する共闘を訴えたところでは意表を突かれましたが、最後にデイルがトソクたちの弁護をしようとするエピソードには心を打たれました。ソウヤーらしいエンディングというべきでしょう。

1999.12.02-1999.12.09読了
2002.10.19読了(日本語版)