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選択肢なし/R.J.ソウヤー

No Choice/R.J.Sawyer

 SFマガジン2001年3月号

 まず、「CONTACT Japan 4」で使われた、異星人“アヒスト”のメッセージをご覧下さい。

[アヒストからのメッセージ]

(SFマガジン2001年3月号「CONTACT Japan 4 レポート」 254ページより)

 上半分が設問で、下の三つが回答の選択肢です。DNAを表していることは想像がつきますが、これだけではその意味はまったくわかりません。しかし、たとえ意味がわからなくても、適切な回答が第3の選択肢(下・右側)である可能性は高いと考えられます。

 設問の左側の模式図に対して、第1の選択肢(下・左側)はかなり似たもの、第2の選択肢(下・中央)はやや違っているもの、そして第3の選択肢は空となっています。ここで、第1の選択肢と第2の選択肢の間の違いは程度問題にしかすぎません。設問のものと同一であればともかく、いずれも設問と異なるDNA配列であるという意味で、質的には何ら違いはないのです。そして、程度の違いで回答の正誤を決定する根拠は考えられないので、設問の意味にかかわらず、あるいは事実に反するか否かにかかわらず、唯一異質な第3の選択肢が適切な回答だといえるのではないでしょうか。

 これに対して作中では、類似性、もしくは進化の原理についての質問であるという解釈がなされ、第1の選択肢が選ばれています。しかし、類似性についての質問であれば、もっと単純な別の図形が使われるでしょう。DNAとはまったく関係がなく、たまたまDNAの模式図によく似た図形が使われるというのは、“オッカムの剃刀”の原理に反するものです。一方、これが進化の原理についての質問だとすれば、第1と第2の選択肢のどちらが正しい回答なのか、アヒストにも判断できないでしょう。両者の間にはその程度の差異しかありません。

 もちろん、実際のファーストコンタクトの場合、設問の意味もわからずに回答するような度胸は私にはありませんが(苦笑)。


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