■ 次へ進む

      
   
    1.ファイラン浮遊都市    
       
  プロローグ / 刹那 

  

 窓から見下ろした、光溢れる小さな中庭。

 清潔なシーツ、清潔なブランケット、それ以上に清潔な消毒液の匂いを忘れたくて、ぼんやり眺めた、その、刹那。

 きらきらと太陽に輝く芝生の描いた、小さな楕円の中庭。その片隅に置かれたベンチに腰を下ろしていたそのひとは、指先に止まったテントウムシをじっと見つめ、それから………。

 ふわり、と

 微笑んだ。

 柔らかな太陽光線に晒されて、一瞬で溶けてしまいそうな、繊細な氷細工の笑み。

   

 …………恋をした。

   

 二度と、その場所でそのひとを見ることはなかったけれど。

  

   
 ■ 次へ進む