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11.ホリデー モード      

   
         
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「でも、なんで今日なんだか俺には判んねぇんだけど?」

 デリラとスーシェが見えなくなって、庭園中央にある公園へ行こうと小道を曲がって、少し。それまで黙り込んでいたミナミが、独り言のように呟く。

「? ああ、デリの事ですか?」

 とうに終わった話題だからなのか、相変わらずハルヴァイトは勘の悪いような事を府抜けた顔でいかにもらしく言った。

 たった数時間で色んな事が判ったり判らなくなったりを繰り返していたせいか、ミナミにはそのハルヴァイトのとぼけた答えも、実はわざとじゃないのか? と、疑わしく…。

「んな訳ねぇって」

 見えない。極めて天然にしか、見えない。

「傍から聞えるよりも、先に知っていて「ああ、判ってたよ。ありがとう」と言うのが好きなんじゃないですか? 貴族って」

「俺にゃそのアンタの説明がよく判んねぇっての…」

 これ以上どう説明しろと? と本気で苦笑いのハルヴァイト。

「今のは最低以下の説明だろ」

「いや、わたしとしては精一杯です」

「精一杯の上限低過ぎ。てか、アンタ面白過ぎ」

「どこが?!」

 なんでそこでそんなに愕く…。と思った。

 突っ込んでやろうと思った。

 それで一歩先に出て、振り返って、その気も失せた。

 笑っていたのだ、ハルヴァイトは。腕を組んで俯いて、目だけでミナミを見たまま。

 なんだか、楽しそうに。

「……………俺さ」

 壮麗な衣装に身を包んだ恋人の怜悧な顔を見上げ、ミナミは戸惑うように呟いた。

「実は、今だって迷ってんだよ…。いや、俺が特務室に戻るとか、そういうのじゃなくてさ。本当にあの時、アンタが何も言わなくても、自分でさ、アンタが…どこから来た誰なのか調べるから、ウォルを…ミラキ卿に「返してやってください」って、そう言うつもりだったけど…。でも、本当は…迷ってたし、迷ってるよ、俺は」

 コスモスの平原は、もうすぐ公園の周りを囲む大木の森に吸い込まれて消えるだろう。

「わたしは、迷ってないですよ」

 頭上の月は、いつまでも佇むふたりを照らすだろう。

「アンタの知りたくない事まで、知らなくちゃなんなくても?」

 都市は、漂い続けるだろう。

「あなたが………それでもわたしの傍にいてくれるのなら」

 ミナミ・アイリーに、

 ハルヴァイト・ガリューに、

 ドレイク・ミラキに、

 ウォル…に、

「秘密なんて、明かされてしまえば秘密でもなんでもないんですよ」

 何があっても、何がなくても。

「……キス…していい?」

「どうぞ」

「顔に触っていい?」

「どうぞ」

「抱き付いてもいい?」

「どうぞ」

「じゃぁ…さ……」

 ミナミは、腕を広げた恋人の胸に倒れ込むようにして抱き付き、彼の頬に額をこすりつけた。

「ちょっとの間でいいから、このまま…こうしてていい?」

 華奢なミナミの身体をそっと抱き締め返したハルヴァイトが、小さく笑って答える。

「ちょっとでいいんですか? わたしは、ずっとこうしていたいんですけどね」

 耳元の囁きがほの白い頬を滑り降りた後、薄笑みの唇がそれを追いかけ綺麗な恋人の頬にそっと触れる。その仄かな温度を感じたミナミは、ハルヴァイトがいつものように素っ気なく離れてしまうのを厭うように、彼の背中に回していた手に力を・・・こめた。

         

          

 何かがあっても、何もなくても、花を、華を、全ての花と華とそれを守ろうとするひとを抱えた浮遊する都市は、冷たい月に青ざめて、空を漂うものなのだ。

 誰かと誰かに。

 何かがあっても、

 何もなくても…。

         

2003/03/14(2003/10/21) goro

  

   
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