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番外編-7.5- ステールメイト リプレイ

   
         
(1)四日目 08:55

     

「つうか甲斐性なし」

「うるさい…」

 非常階段室から廊下に抜ける鉄扉を恭しく開けて貰い、傍らに退けたヒューの前を通過しつつミナミが言えば、あらぬ方向に視線を逃がしたまま言い返す、銀色。昨晩の陛下との話し合いで、名目上は「二週間の城内謹慎」を言いつけられたヒューはその日から、朝登城して夕方に帰ると言う、前代未聞の日勤シフトに突入する事になった。

 とはいえ、この二週間が暇を持て余すほど退屈な訳ではなく、つまり、内々に言い渡された「一年後」の最初の準備を、丁度良くシフトから外れている間に済ませてしまおうというだけなのだが。

 それこそ部下もなくゼロから何かしようというのだ、一年などあっという間だろう。しかも謹慎が明ければ、通常の護衛任務に一旦は戻らなければならない。正式にルニが女王に指名されると特務室に通達が来て、始めて堂々と警護班から外れられるのであって、今は「二週間もうろうろと何をしてるんだか」と言われるのがオチだ。

 九時から五時までの間に、何をするか。二週間で、どれだけ目鼻をつけて置くか。かなり真剣に悩みながら登城してみれば、非常階段の途中でミナミと一緒になった。ハルヴァイトは非番で、などと話しているうちに、当然? 話題はアン少年に及び…。

「どう」なった? と訊かれてヒューは、「別にどうにもなっていない」と…正直に、一部だけ、答えた。

 で、冒頭の台詞である。

 それでも今はいいと思ったのか、それとも何かまだあるが内緒にされていると勘付いたのか、ミナミの口調はからかいの域を出てはいない。本気で咎めるつもりならこの「天使」はあのダークブルーで真っ直ぐにヒューを見上げ、無表情に何か吹っかけて来るのだから、銀色の答えは青年をある程度満足させたと言えるだろう。

「それよりさ」

「なんだ?」

 緩くラウンドした廊下をてくてく歩きながらミナミが何か思い出したようにぽつりと呟き、ヒューは片眉だけを吊り上げ小首を傾げて見せた。

「ルード、怒ってんじゃねぇ?」

「? なんでルードなんだ? クラバインなら納得行く、というか、…もしかして陛下もお前も、クラバインにはなんの説明もしなかったのか?」

「してねぇ」

 ミナミの素っ気無い返答に、思わず背中に冷たい汗を掻く、ヒュー。

 部下はいいとしよう。アンとの事は誰にも話すつもりはないし、一体三日も何をしていたのかと言われたら、かなり横暴だが、うるさい黙れ教えないと答えておけばいい。しかし、まさか上官であるクラバインにはそうも行かない。この場合、ルニの即位に合わせて新設される護衛班の話は今頃彼の耳にも入っているかもしれないが、問題は、なぜヒューが突如消え、突如現れたか問い詰められる事の方だった。

 急に難しい顔で黙り込んだヒューの横顔を、ミナミがちらりと盗み見る。昨日の帰りがけ、そういえばクラバインにはヒュー失踪の顛末をどう説明するのかと問うた青年に陛下は、やたら綺麗な笑みを見せてこう仰られた。

       

「スレイサーに言い訳させてやれ。本人が余計な事を言いたくないなら、それが一番だからね」

          

 ヒューとクラバインは、子供の頃からスレイサー道場で顔を合わせ、共に修業して来た仲なのだ。周りがごちゃごちゃ言うよりも、本人同士の話し合いで決着するなら、それでいいだろうとミナミも思う。

 多少、ヒューの深刻そうな顔付きが気になるが…。

 今日の予定はどうだったかなと、携帯端末に収めたスケジュールではなく脳内の記憶を呼び出したミナミは、暇があったらアン少年の顔も見に行こうと考えた。どうせハルヴァイト不在の電脳班はだらけているだろうから、少し長めに時間を取って、話をするのもいい。

 そう長くない廊下を通り過ぎて特務室の前に到着すると、ヒューはミナミより先にドアノブに手を置きそれを引き開けてくれた。そういえば、よく気が回るというか最早癖になっているのか、ヒューはミナミと同行する時も、まるで相手が陛下でもあるかのように、ごく自然にこういう行動を取る。

 並んで歩いているはずが、曲がり角では一歩前に出ている。ドアの開閉は、必ずヒューがする。何か物音のした方に顔を向けると、黒に銀の際立つ背中が最初に目に入る…。

 これは、守る人なのだ。

「おはようございます、アイリーじちょ…」

「いや、そこで区切られるとすげーおかしいから」

 なんだか少し浮かれた気分で特務室に踏み込んだミナミを振り返った部下が、一瞬で凍り付く。理由は判っているのだが、ミナミはわざとのようにそれに突っ込んだ。

 室内に居たのは、ジリアンとルードリッヒとクインズ、他に三名ほどの衛視たちだった。

 俄かに温度の下がった室内を無視して、その、温度を下げた元凶だろうヒューは、長上着のポケットから取り出したネームプレートを、ドアの腋に掲げられているホワイトボードに貼り付けた。

 勤務在室の部分に、微妙に曲がった状態で戻されたそれをダークブルーの瞳で一呼吸ほど眺めたミナミが、自分のプレートを移動する時、細い指でヒューのプレートの角をちょいとつつき、きちんと水平に直す。

「几帳面だな、お前」

「つか、ヒューが気にしなさ過ぎ」

「…もしかして、恐ろしいほど綺麗に枠に倣って貼られているガリューのプレートは、毎回お前が直してるのか?」

 と、今日も不在エリアに美しく水平に貼り付けられた「ハルヴァイト・ガリュー」という名前を指差す、ヒュー。

「違う。あのひと、部屋とかなんとかは際限なくぶっ散らかすけど、その散らかし方にも法則あるみてぇだから、几帳面てんじゃねぇけど、譲れないモンはぜってー譲れねぇつうか、そういう、なんか迷惑な感じのこだわりあるみてぇ」

「なんなんだ、それは…」

 うん、確かにそれは迷惑だ。と、その時室内に居た誰もが頷く。

「じゃなくてっ!」

 部下を硬直させた責任も原因も無視して暢気にミナミと会話する、ヒュー。その内容のどうでもよさに、思わず和やかな気分に陥りかけたのを無理矢理元の位置に引っ張り上げたのは、突如怒声を発したルードリッヒだった。

「今までどこ行ってたんですかっ、班長!」

 もしかして、ヒューのすぐ傍にミナミがいなかったら突進して来てその胸倉を捻り上げそうな勢いでルードリッヒが言っても、ヒューは驚くでもなく「仕事」と素っ気無く答えた。

「つうか仕事かよ」

「…頼む、ミナミ、今日だけはそれに突っ込んでくれるな…」

 明らかに仕事でもなんでもない原因でヒューが消えたと知っているミナミが、無表情ながらにやりと口の端を吊り上げて言えば、こちらも明らかに都合の悪い銀色が溜め息混じりで懇願(?)する。その、最近特に目に付く仲良し兄弟風の会話に、室内がまたも和みかけた。

「だからそうじゃなくてっ!!」

「何がだよ…」

 今日こそはなんとしてもこの横暴? 班長に一矢報いてやろうというのか、ルードリッヒはあくまでもヒューを問い詰める体勢を崩さない。実際のところ、警護班のうち班長不在で一番迷惑を被ったのは、慣れない代行業務を三日務め、一日目に言われたシフト変更の通達を作るのに、実に二十七回もクラバインからダメ出しを喰らってヘコんだルードリッヒだとミナミも知っていたので、青年はとっとと銀色の傍から離れ、哀れな部下に場所を譲ってやった。

「仕事なら仕事だってどうして言ってくれないんですか! 室長は班長がどこに行ったのか知らないなんて最高に機嫌悪く言うし、だからって直接連絡取ろうにも携帯端末は切ってあるし、仕事は片付かないのに舞い込む一方だしシフト表はパズルみたいに継ぎ接ぎだし寝る間も惜しんで作った報告書は二秒で戻って来るし!」

 そそくさと退去したミナミと代わったルードリッヒが、傍観するジリアンたちも唖然するほど怒気満天に言いながら眦を吊り上げ、自分のデスクに爪先を向けたヒューに詰め寄る。

「聞いてます?! 班長!」

「はいはい、聞いてるよ」

「ぜってー聞いてねぇ…」

 なんというか、こんなに威勢のいいルードリッヒを見るのは初めてかもしれないと思いながら、ミナミがぼそりと突っ込む。そういえば、ルードリッヒ・エスコーという、普段は掴み所のない笑みを満面に貼り付けていてその複雑な内情を垣間見せもしない、隠れエスト卿という異名を持つ青年は、ここ三日ばかり笑顔を見せていなかったような気がする。

 それでふとミナミは、銀色の散った背中に何やら言い募るルードリッヒと、それを聞いているのかいないのか判らない表情で、綺麗に片付いている自分のデスクを眺めているヒューから、口を噤んでにやにやしているジリアン以下五名に…視線を流した。

 そうかと思う。

 これもまた「しあわせ」かと。

「…俺さ」

 室長室へ抜けるドアからやや離れた位置に佇んでいたミナミが呟いて、ルードリッヒは喋るのを止めた。

「ルードってもっと仕事デキんだと思ってたのに、二十七回も室長にダメ出し喰らってんなんて、まだまだだよな」

「…二十五回ですよ、アイリー次長」

「二十七。俺、間違えねぇよ、そういうの」

 完璧な記憶で。完全な記録で。ミナミは間違えない。

 ヒュー・スレイサーというひとの唐突な喪失が、どれだけ彼らを不安にさせたのか。

 平坦な口調で告げ、それなのに相当可愛らしい仕草で小首を傾げたミナミに拗ねた視線など向けられなかったのか、ルードリッヒは困ったように眉のお終いを下げて苦笑を漏らした。

「二十七回とは、褒めた甲斐のないヤツだな」

 確か乱雑に散らかっていたはずのデスクが、まるで引っ越す前、または引っ越し直後みたいに綺麗に整理整頓されている事を内心訝しがりつつ、でもやっぱり偉そうに腕を組んだヒューが素っ気無く言う。

「…………。言いましたね、班長」

「ああ、言った」

「言いましたね、はんちょお」

「つうか何をだよ」

 まぁ、言ったけど。何か呆れたような台詞を。でも、何に対して「言った」なのかちょっと不思議、とミナミがジリアンに小首を傾げて見せるのと同時、素晴らしく美しい動作でひらりと踵を返しつつ長上着の懐に手を突っ込んだルードリッヒが、にやりと…あの掴み所なく極めて物騒な笑み…そういう顔はローエンスとよく似ている…を満面に取り戻し、ふふん、と得意げに鼻を鳴らした。

「後悔させます」

「断定かよ…」

「決定事項です」

 で、笑顔。

 同時に懐から引き抜かれた白手袋が握っていたのは、一枚のハーフサイズロムだった。

「はい、注目。これ、は、重要機密?」

「誰に訊いてんだよ、誰に」

 室内を旋回するくすんだ緑の瞳を追いかけつつも、忘れず突っ込む、ミナミ。

 というか、重要機密でヒューが後悔? とは、これ如何に。

「重要機密って…、得意そうなお前の顔が非常に怖いんだけど、そんなモノここで出してどうするのさ、ルード」

 同僚と上官を睥睨した視線が、再度佇む銀色の頭上に戻った。

「いい質問だね、ジリアンくん」

「今日、ルード変」

「つか、ある意味いつも変だろ」

「…アイリー次長は可愛いから許しますけど、ジルは後で覚悟しとけよ…。

 で、話を元に戻しますが―――――」

 親指と人差し指で挟んだロムが、わざと勿体つけて話すジリアンの台詞に合わせてくるくると回る様を、ヒューがやや据わった目付きで眺めている、奇妙な…光景。

「見たいか見たくないかはさて置き、気になるでしょう? 班長」

「……何が」

「き」

 ルードリッヒの唇が動き、言葉が音になるよりも早くヒューの腕が翻って、刹那、綺麗に整頓されたデスクの片隅に積んであったフルサイズロムが一枚、鋭く空を切ってルードの顔面を強襲。ぱあん! とやけに軽い音と共に額と鼻の頭に激突した衝撃で、青年、悲鳴も上げず手にしていたロムを手から零した。

 ばしゃんと床にフルサイズロムが落下し、真っ赤になった額を押さえたルードリッヒが目尻に涙を浮かべてしゃがみ込んだのに、青年が落したハーフサイズロムは…。

 最初にディスクを投げ付ける時点で既に移動開始していたヒューの出した足の爪先に、しっかり踏み付けられていた。

「命が惜しいならそれ以上余計な事を口走るな、ルード。それとも、このロムの代わりにお前がゴミ箱に行くか?」

 腕を組んだまま身を屈め、床にしゃがみ込んでいるルードリッヒの顔を覗き込む、ヒュー。陰になった銀色の表情は誰からも見えなかったが、咄嗟に視線を逸らして赤くなった額に冷や汗を滲ませた青年の顔付きを見れば、それが尋常でないというのは判るだろう。

 最早声も無く小さくなってふるふる首を横に振るルードリッヒと、銀髪の流れる背中を眺めて、ミナミは苦笑した。

「ルード情報早過ぎ」と思ったが、ここでそんな突っ込みを繰り出そうものなら今度はミナミが脅されて、後日、それを聞いたハルヴァイトがまた何かしでかすのが怖いので、青年はがんばって? む。と口を噤んだ。

 でも、可笑しい。

 ルードが、すごく年下の「弟」みたいに見えた。いや、実際は、ミナミより年上だと思うが。

 長生き出来てよかったな、などと、この男が言うとかなりシャレにならない呟きを漏らしつつハーフサイズロムを拾い上げたヒューは、無情にもそれを磁気ダスターの口に放り込んだ。綺麗な放物線を描いて濃い灰色の無愛想な箱に吸い込まれていく正方形を目で追いながら、ミナミがまたも内心苦笑する。

 連想される回答はひとつか。それともただの勘違いか? 「き」が頭文字でヒューがこれだけ慌てる…とミナミは思った…のだから、多分、ルードリッヒの取り出したロムに収められていたのは、キャロン・ヒス・ゴッヘルの「何か」だろう。

 ヒューは、磁気ダスターの消去済み確認ランプが赤から緑になるのも確かめず、すぐ踵を返しルードリッヒの前を離れた。その時、またも難しい顔を作った銀色の爪先が室長室を向いているのに、ミナミが薄く微笑む。

 言い訳。

「班長、室長に御用ですか?」

「ああ、ちょっとな」

 ようやく立ち上がって長上着の裾を払いながらルードリッヒが問えば、律儀になのかなんなのか、答えだけは返る。例えばそれがどんなに適当でもキツくても、答えてくれようとする意志があるのだと、ミナミは思った。

 なんだか少し、嬉しくなった。

 と、ひとりミナミが和やかな気分になりかけた時、唐突に、それ、は始まる。

 大股で部屋を突っ切ったヒューが室長室の前で足を停め、今まさにそのドアをノックせんと右手を差し上げた瞬間、翻る漆黒の長上着。水平に流れたそれがルードリッヒとクインズの残影だと思うより早く壁際に退避したミナミが冷たいダークブルーを動かせば、そう広くない室内、デスクにぶつかる事もなくヒューの背中に肉薄したふたりの青年が、片や頭上から首筋を狙って手刀を叩き下ろし、片や身を沈めて鋭い膝蹴りを佇む銀色の太腿に突き刺そうとする。

 前面に壁、左右後方、上下から同時に襲い掛かる攻撃。

「あー」

 と、ミナミが妙に腑抜けた声を発するのと同時に、ヒューの頭部が、がくりと沈んだ。

 高速で振り向きざまに座り込んだ、というのが一番判り易いだろうか。とにかく、ミナミが瞬きもせずに見ている前で起こったのは、ヒューが回避に失敗してバランスを崩したようにしか見えない行動だったが、到達するはずの対象が掻き消えて虚を衝かれたルードリッヒの前傾した胸倉を咄嗟に掴んで引き寄せながら捻ったのと、水平に奔ったクインズの膝を身体の前に立てた腕の肘で弾き返したので、つまりこれも計算通りの動作だったのだと判った。

「っ!」

「てっ!」

 一瞬の攻防? 結局、上段に仕掛けたはずのルードリッヒは、室長室のドアに背中を預けて床に座り込んだヒューの立てた膝に胸から突っ込んで息を詰まらせ、膝蹴りを腕で押し戻されたクインズは、残った軸足に衝突したルードリッヒの身体にバランスを崩されて後ろのデスクに背中から激突し、その場にぐちゃりと尻餅を突いておかしな悲鳴を上げた。

「…つうか、そこまでしてヒューとじゃれてぇの? ルードとクインズは」

 それを眺めつつミナミが漏らして、ジリアン以下四名が吹き出し、ヒューが呆れたように溜め息を吐き、何か言い返そうと唇を動かした、また、瞬間。

 唐突にヒューの背後、室長室のドアが開け放たれたと思うなり!

        

 ごっ!!

       

「……っっっっ!!!!!」

 地味な顔に怒気を漲らせて眉を吊り上げたクラバインが、現れるのと殆ど同時に、自分に背を向けて膝にルードリッヒを載せ、身動き? 取れないヒューの後頭部に…。

「いい大人が…ゲンコツかよ…」

 物凄く痛そうな音のゲンコツをくれた。

 クラバイン、さすが一式道場、元、師範代か。地味で生真面目な印象ばかりが先行するも、この男もまたヒュー並みに腕っ節が強く、格闘技のなんたるかを学んだ者だったから、さすがの銀色も強かぶん殴られた頭頂部を抱えて、伸びたルードリッヒの上に突っ伏したではないか。

「いや、あの音は痛ぇだろ、あの音は」

「まさしく一方的な鉄拳制裁でしたね、今のは」

「何か仰いましたか? ミナミさん、と、ジル」

「「いいえ」」

 思わず漏らしたミナミとジリアンを、クラバインの薄ら寒い笑顔が黙らせる。

「朝から何を騒いでるのかと思えば、逆に落されているとはまったくもって情けない。よくそれで警護班だなんて言えますね、ルードもクインズも。暇な時間に基礎訓練からやり直した方がいいのでは?」

 言いつつクラバインは。

 半ば蹲ったヒューの膝に凭れたまま呆気に取られているルードリッヒを胴体の下に差し込んだ爪先だけで軽々と引っくり返して床に転がし、凍り付いた衛視室に笑顔を振り撒きつつ、未だ頭を抱えて唸っているヒューの襟首を掴んで、背中の真ん中に軽く膝を当てた。

「いっ!」

「とにかく、お前はちょっと来なさい。…それで、ミナミさん、申し訳ありませんが、許可するまでこちらの入室を遠慮していただけますか?」

「…うん」

 多分、いや、十中八九明らかにダメージを受けたらしいヒューが反射的に上体を反らそうとした刹那を狙って、クラバインがぐいと首根っこを引く。結果、バランスを崩した銀色は無様にも引き摺られ、開け放ったままだったドアの向こうに…食われて行った。

 呆然とそれを見送って。

 ミナミを含む衛視室に残っていた面々は顔を見合わせ、引き攣った笑みを浮かべた。

「…なんか、凄ぇモン見たつえば、見た気はするけどな…」

  

   
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