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占者の街 | |||
第六章 占者の街 悪党の場合(5) | |||
ガシャァン! 累々と死体の転がる前庭で暢気に立ち話していたヌッフたち悪党と、未だ真っ青な顔で肩を寄せ合い震えるネルとレディ・ポーラ・フィルマの耳を、悲鳴ではなくガラスの割れる音が打ち据えた。反射的に館に顔を向け、最上階から降ってきた奇妙な人形を目で追い、それが地面に叩き付けられてから、やっぱり人間なのか、と誰もが嘆息した刹那、ついに悲鳴を上げたレディ・ポーラ・フィルマが、がっくりとネルの腕に倒れ込んだ。 「あらら…。ってまぁ、しょうがねぇか」 腕を組んで苦笑いするヌッフ。 「今まで平気だったんですから、上等じゃないですか?」 ね。とにっこり微笑むルイード。 「それにしても…あ!」 ふーっと溜め息をついたミディアが真っ赤な唇に苦笑を乗せ上空に視線を向けた、直後、先に落下して来たデク人形を追いかけるように何か黒い塊が放物線を描いて空中に放り出されて来た。 「? あれってぇ、首じゃないの?」 ぐしゃ! と地面に激突し変形した塊を指差したシャオリーが、小首を傾げる。 「何も、投げることはないだろうに…」 顔の判別がつかないと、後で騒ぎになるんだが。といかにも判定員くさいセリフと呆れた溜息をハルパスが漏らした途端、「あぁぁぁ!」と、なぜかミディアが両手で頭を抱え悲鳴を上げたではないか。 「? なんだぁ?」 「なんですか?」 「どうした?」 「なぁにぃ?」 「……?」 それぞれ色の違う瞳に見つめられたミディアは、肩を竦めて小さくなりながら、えへへ、と引きつった笑いで悪党どもから顔を背けた。 「あの…さ」 もじもじと指をこね回し、しきりに上目遣いで囲む悪党どもの顔色を窺う、ミディア。 「ギャレイの部屋ってさ、その…あの……、あ! 先言っとくけど、阿片ほど質(たち)悪くないのよ?」 「………って事ぁ、何か?」 太い眉と、その眉を飾る金色のピアスを寄せて、ヌッフが溜め息みたいに吐き出す。 「館ん中で妖しい行動取ってもなかった事に出来るように、うすーーーく薬物混合した蝋燭をさ…」 「これは…逃げるべきか?」 ミディアの告白を最後まで聞かずに、ハルパスが大真面目な顔でヌッフに問いかける。 「逃げる準備はいるだろうよ…。ま、ねーちゃんが一緒なら、こっちにとばっちりはねぇだろうが」 えへへへへ、としきりに笑いを振り撒くミディアをげんなり見つめ、ヌッフはがしがしと乱暴に頭を掻いた。 どうあっても手のかかる、厄介な男だとヌッフは思う。顔はいい。頭も切れる。少々得体の知れない部分が目立つような気はするが、総じて、悪党だが悪い男ではない。 ただ。人騒がせという性癖(……)には、正直、参る。 「いや、そうでねぇと困る。何せ意識のねぇにーさんときたら、マジでよ、素手でオレの首へし折ってもおかしくねぇんだって…」 どこで身につけたのか、シュアラスタの操る見た事もない流派の体術は、絶対徒手空拳だったと、その時誰もが思い出した。
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