現状の教育相談への疑問(2006年版) 

〜スクールカウンセラーを有効活用しているか、カウンセリングマインド論批判等〜
 

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@スクールカウンセラーの活用の仕方

文部科学省は平成13年度よりスクールカウンセラー(以下SC)活用事業(補助)を本格スタートさせました。しかし、一方で、行政改革や財政削減の必要性から財務省よりSCの費用対効果が疑われています。SCを派遣しても必ずしも不登校の減少など効果があがってないということを文科省は突きつけられているらしく、これまでSC予算は拡大し配置校も増えていった状況から一転、SCの配置は現状維持か若干の縮小へ向かうのではないでしょうか。

これは、医者を増やしても病気が減らないのといっしょで、SCを増やしたからといって生徒の心の問題が減少しないということで説明できると思います。 ただ、現実には、SC制度もここまで来ており、私の勤務校の教育相談体制もSCの存在前提に構築されています。なのに、今年度はSCの年間活用時間総数半減され非常に困っ ています。

SC活用に関する費用対効果が低いのは、一つにはSCの多くが未だに各校で個別臨床や個別カウンセリング的に活用される段階に留まっているからではないでしょうか。それには、SC側の問題もあるし、活用する学校教員の側の問題の両方があると思います。

SCは臨床心理士が中心で大学院での実習のほとんどが個別臨床の実習です。臨床心理士の任務の一つに臨床心理的地域援助がうたわれていますが、実際、臨床心理士指定大学院で、地域援助の具体的実習を行っているところは少ないし、そのようなことを指導できる教員も少ないと思います。だから、配置されたSCはまず問題をもつ児童生徒の個別臨床からスタートする。そして、そのまま各学校の心の問題の重い生徒の個別面接を毎週1回の勤務日に繰り返しているという状況の学校が多いのではないでしょうか。それでもそのような学校はまだ益しで、せっかくSCが配置されても、ヒマをもてあましているところもあるようです。さらに、これまでのSCの事例研究や実践研究をみると、SCが学校の状況や教員を尊重し遠慮しながら学校現場に入っていこうとしてきたことがわかります。たしかに導入当初いきなりSCが 偉そうにしていることもできないと思いますが、もう少しSCも能動的に学校全体に働きかけ、不登校を減らすための具体的アクションを目標に据えてもいいのではないかと考えます。

学校教員のSC活用も問題です。同様に不登校気味の生徒や心の問題を持つ特定の生徒のみ繰り返し個別カウンセリングを受けさせるだけの活用をしている。あるいは、せっかくSCを配置されてもどう活用していいかわからずもてあましているような状況だと思います。SC担当者は学校教員の中でも教育相談に関心があったりする人がなる場合も多いでしょう。でも、そういう人は、自分が相談にのる技術を学ぶと同時に、SCの活用の仕方についても研修を摘む必要があると思います。

ではどうしたらいいでしょうか。

私の勤務校は、定時制独立校なので、問題を持つ生徒が多く、個別対応だけではやりきれないので、いつもカウンセリングの後、守秘義務には注意しながら、関係職員で集まってSCから当該生徒への対応方法について助言を得ます。さらに、教育相談関係の職員会議を開き、生徒への対応についてSCから直接発言してもらい助言を得るようにしています。つまり、個別カウンセリングに終わらず、必ずSCから関係職員がそのあと話し合う機会をもつのです。そうすることで、SCを中心に職員同士の連携や協力関係が広まり、さらには職員の意識が高まっていると思います。SCの権威や専門性を借りて職員連携構築のきっかけとしている、あるいは、SCの影響力で職員の意識を高めようとしている、といえると思います。これは、特定の生徒だけの個別カウンセリングを毎週繰り返しているようなことではいられない、本校の受け皿校としての状況から行っているやむを得ないSC活用方法なのですが、結果として、それがSCをインパクトにした連携構築、職員意識の向上につながる結果になっています。まだ、私の勤務校も発展途上だと思いますが、このように職員の意識が高まれば、さらに、予防的な効果が高まり、SC配置が不登校等の減少につながっていくのではないでしょうか。

つまり、

SCからの助言→関係職員の連携の発展→職員の意識の高まり→予防的効果の向上

というような図式が成立してはじめて、SC配置の費用対効果が高まるのではないかと考えます。個別カウンセリングをしているだけでは、財務省のいうとおりだと思います。

学校のSC担当教員は、そのような図式が成立していくようにSCを有効活用する必要がある。個別カウンセリングの時間を削ってでも、SCと教員との話し合いの時間を捻出した方がいいと私は思います。

 

A教員が学校現場でカウンセラー化してもしょうがない

教育相談に関心のある教員の多くが、SC活用よりも、自分がカウンセラー的になりたがる傾向があるのではないでしょうか。そして、教育相談のいろんな研修に出て、いろんな技法を身に付ける。しかし、現実には学校教育の論理と心理技法の論理が違うため、現実の教育現場に生かし切れない。カウンセリングのようなスタンスをとっていると、他の教員からずれていく。 私自身もそうした苦い経験があります。「教員もカウンセリングマインドを持つこと」がかなり前から奨励されてきました。実際、ある程度はそういう態度で生徒に接した方が有効な場合もあるでしょう。しかし、教師とカウンセラーは別のもの。そして、人間の成長にとって、すぐれた学校教育の実践の方が、カウンセリングよりはるかに有効であると考えます。それは、病的な傾向をもつ生徒にとっても同様。精神的に深刻な問題を抱えた生徒でもすぐれた学校教育を受けることで健全化する、立ち直っていくというシーンを私は何度も目にしています。だから、学校教員である以上、自分がカウンセラー的になろうとするよりも、まず、授業、特別活動、部活動、進路指導、生徒指導などですぐれた実践をすべきです。そうした優れた学校教育での実践こそが、カウンセリングの何倍も生徒を健全化させ、成長させます。ただ、私は、カウンセリング的働きかけも完全否定ではありません。「人間として教員として常識の範囲で生徒の相談にも乗る」ということも大切です。また、SCという専門家が学校現場に存在するのだから、本格的なカウンセリングは彼らに任せて、教員がたとえ教育相談担当者であっても、変にカウンセラーのようにならず、人間として教員として生徒の相談にのり、難しい問題はSCにリファーする。教育相談担当は日常的には学校教員として精一杯すぐれた実践をしていく。その方がカウンセリングの何倍も効果があります。

SC配置校の場合、次のような図式が成り立つことが理想でしょう。

(SCのカウンセリング+SCと教師との連携)×学校教育→生徒の健全化・成長を何倍にもする