第四回 特別編 “しゃぶしゃぶ紳士”の段 (2000年納会の態)


試合後、仕事をする五嶌選手を横目に、会社で泡盛やウィスキーをあおりつつ、くだまいていた寺崎、鈴木、小林、平野の各選手とひとみ嬢。納会は17:30からだというのに17:00近くなった段階で「風呂に行こう!」と慌てて車を繰り出した。鈴木選手のナビで危うく歌舞伎町に向かいそうになったが、「それは違う風呂だろ!」ということで内神田“稲荷湯”に到着した。

ひとみ嬢は18:30ぐらいの飛行機で九州に行くとのことで、銭湯に行く途中から羽田に向かうかと思われたが、平野選手に拉致され、入浴するはめとなってしまった。10分程度であわただしく入浴を済ませた平野選手は風呂からあがる際、女湯に向かって「ひとみ〜!あがんぞ〜!」と大音声を発し、その声に静まりかえった浴場内の人々が凝視する中、脱衣場へ闊歩した。しかしこの時、ひとみ嬢は風呂をあがって着替えており、平野選手には恥の上塗りとなったようである。

外に出てきた面々は、銭湯の入り口でひとみ嬢を囲み記念撮影をするなど、納会の時間がせまっているというのにわけのわからない行動をとりつつ、納会会場へ向かった。途中神保町駅で、羽田に向かうひとみ嬢とそれを見送る平野選手が車から降りたが、髪を濡らした男女がなぜ神保町界隈を歩いているのか、周りの人々はさぞ訝しいことであったと思われる。新大久保あたりなら何ら不思議はないのだが。

寺崎、鈴木、小林各選手が会社まで戻ってくると、耳に赤鉛筆をはさんだ男が、会社前の路肩にしゃがみこみ、半笑いでタバコを咥えている。これなん江森選手である。見るからに競馬帰りの江森選手に小林選手が「何で試合に来ないんだ」と問うたところ「試合には間に合わなかったけれど、競馬には間に合った」などと、とうてい納得しかねる言い訳に終始。結局、これ以上三振を増やさないための欠場だったと皆に結論されつつ、会場のしゃぶ沙羅についたときには17:45となっており、隅の席で大嶺選手が一人で寂しそうに鍋の湯気を見つめていた。

ひとみ嬢の見送りをすませた平野選手も会場に到着し、納会が始まった。当初8人参加の予定が、国広、福澤両選手が風邪により当日リタイヤ、参加6人という「ホンマに納会かい?」というような少人数となった。しかしそのためセットされた鍋が二人に一つという、実に食べやすい状況が整った。毎年「食べ放題の元はとる!」とばかりに、皿の肉を全部バサッと鍋に放り込み「それじゃしゃぶしゃぶじゃなくて単なる肉鍋じゃねーか!」といった光景が繰り広げられていたが、今回は落ちついて、箸にとった肉を湯にくぐらせる、いわゆる“しゃぶしゃぶ”を皆が味わうことができた。ドタキャンで会費だけ払うはめになった国広、福澤両選手に感謝の意を表すため、参加者全員があざみ野と東葛西の空に向かって合掌した。

各賞表彰となり、首位打者平野選手、打点王と本塁打王の寺崎監督にバッティンググローブ、成長著しい杉山選手には特別賞として真っ赤なリストバンドが授与された。そして投手部門を独占、全試合出場を果たした小林選手には、バッティンググローブに加えサロンパスEXが贈られた。小林選手が14試合で65イニング登板という事態を踏まえ、寺崎監督が「投手の育成が急務である」と憂えたところ、黙っちゃいなかったのは江森選手だ。豪速球、淡路投手の師匠を僭称する江森選手は「なぜ自分に登板の機会を与えないのか」と目を潤ませ監督に訴えかけ「来春合宿で俺のピッチングを見れば使わずにはいられない」と豪語した。その江森選手には、三振王の報いとしてタワシが贈られ、合宿までに練習ボール磨きをすることとなったが、春には自分で磨いたボールをビシビシ投げ込んでくれることを期待したい。

各人とも満腹になりつつあり、皿の肉も半分以上残っている時に「食べ放題の追加はラストになりますが…」と店員がやってきた。一瞬、鈴木選手と目が合った監督は「肉2皿!」と迷わずに注文した。この最後の2皿は、ほぼ寺崎監督と鈴木選手で食べ尽くしたと言ってよい。夏バテで一時期食が細ったと言われた鈴木選手だったが、この駄目押しの肉2皿を監督とともに平らげたことにより自信を深め、体の肉を充分に取り戻し来季を向かえるであろうことは想像に難くない。

会計を済ませたところで、寺崎監督は肝心なことを忘れているのに気付いた。恒例、じゃんけん大会である。芳賀書店に買出しに出かけた監督は、そこで見かけたPink rotorの意外な安さに驚き、瞬間「これにしようか」と思ったが、ウチのメンバーにとっての実用性は、やはり使い回しのできるAVだろうという結論に至り、「北野まんぐり講座」でおなじみの宮澤ゆうな嬢の作品を購入した。これを勝ち取ったのは鈴木選手だったが、女優ものソフト路線につき、熟練者の同選手にとってはとるに足らないものであったようである。

しゃぶ沙羅を後にしたのは20:00過ぎ。まだ宵の口ということで、カラオケへというありがちな流れとなった。大嶺選手は壊れ、アクションを交えサザンを熱唱、何を言っているのかさっぱりわからないのが桑田っぽいと言えようか。江森選手は氷室になりすましボウイメドレーを歌いこむ。掛け合いのマイクを向けられた寺崎監督は迷惑顔だ。平野選手は、持てる音域を無視してまで尾崎豊などを絶叫。挙句に「ヨーデル食べ放題」を歌おうとすると大嶺選手にキャンセルされるなど醜態を見せた。その他、皆が自慢の歌声を晒しあい、それぞれが「もうかんべんしてくれ」という頃合に解散。それは崩壊手前ぎりぎりのタイミングであったと言えよう。

総じて言えば、よい納会なのである。酩酊し自分を失う者もいない。ネエチャンにからみ、靴で頭を叩く者もいないし、山小屋に女を軟禁して犯す輩もいない。「RUSHは紳士たれ」この訓戒を常日頃各々が肝に銘じていることの証左と言えよう。2001年の納会が銀座“吉兆”で催されたところで、何の違和感もない誇り高き選手達なのである。

パチンコ“吉兆”に出入りするのが不自然なぐらいである。