旅行記

「サトシ・24才・春」

4月12日 6時30分
 
寒い!さすがに箱根の山奥に来ただけの事はあります。早朝の寒さはまだまだきついです。僕は朝強い方だし、寒いのも比較的苦にならない人なので、窓を全開にして山の清浄な空気を目一杯取り込む。今日も天気は最高っす。やる気になってきてます・・・なにを?
 今日泊まる宿は決めていません、適当に探すつもりです。最悪、ミニで一泊。
 
 朝食はいかにも旅館の朝食と言う感じで、非常に微笑ましい。海苔に卵に焼き魚にほうれん草のおひたしに・・・。僕は基本的に朝食を食べない人なんだけど、気分が良いのでゆっくりと時間をかけて食べました。
 通算4回目の硫黄温泉入浴をゆっっっっくりと終えて、出立。



4月12日 10時00分
 昨日あきらめたロープウェイ乗り場へ。運行経路を見てみると、今回の旅の主たる目的地である「箱根・彫刻の森美術館」まで、ロープウェイ〜ケーブルカー〜登山鉄道を乗り継いで直接いけるみたいです。こりゃ便利! 乗り場に車を停めておいてまわってくればいい。さすがは観光地、便利な順路のシステムが出来上がってるな、等と感心しつつ往復券を購入しいざロープウェイへ!!・・・・・結果からいうとここにはちょっとした罠が仕掛けられていたんだけど、この時点でサトシがそれを知る由もなかったのだった・・・・。


4月12日 10時15分
 まだ朝早いためか比較的空いているみたいです。途中までは貸しきり状態です。まるっきり子供のようにワクワクしながらロープウェイに乗り込みました。

 ロープウェイ内から遠くに望む富士山。馬鹿馬鹿しい程に堂々とでかい。
 富士山というのは本当に大きいです。富士山の近くを通るたびに、「たしかこれ位の大きさだったよな・・」なんて想像しながら通るのですが、実際に姿をあらわす富士山はいつもいつも僕の想像の中よりもはるかに大きいです。この大きさはなんというか・・・たいしたものですね。そしてどこからみてもバランスの良い形をしていて、かなり美しい山です。僕が改めていう事でもないんですけどね。

 硫黄の立ちこめる小涌谷。高いです。怖いです。
 それにしても、今日は風が強い。ロープウェイはけっこう揺れます、ていうか
メチャメチャ揺れます。この高さでこれだけ揺れるとはっきりいって怖いです。まさか落ちる事はないとは思うけれども、「落ちたら確実に死ぬな・・・」等と考えない訳にはいきませんでした。
 途中で乗り込んできたおばちゃん二人組なんかこちらの目も気にしないで、まるでコギャルのようにキャーキャー言っている。ちなみにこのおばちゃん二人組とはここからケーブルカー、さらに登山鉄道まで一緒でした。ずっとキャーキャー言ってました(笑)



4月12日 11時00分
 ロープウエイからケーブルカー、さらに登山鉄道を乗り継いで念願の「箱根・彫刻の森美術館」に到着。ここは非常に簡単に説明するなら、あちこちに彫刻作品を配置した公園のような場所です。
 美術館というのは普通なかなか子供を野放しに出来る場所ではないですが、ここは子供を放しておいても大抵は大丈夫な造りになっています。
 残念ながら4月ではまだいささか寒かったので(風がなにしろ強かったし)、今回は断念しましたが、もう少し暖かい季節であったら芝生の上に1時間位寝転がって昼寝をしたくなるような、実にゆったりとした時間の流れている場所です。


この写真でなんとなくイメージが伝わるかな〜?

 庭園の一角にある塔。およそ12〜3メートル程。何人かの芸術家の人達の合作で、この美術館のシンボル的な建造物。
 内部を通って頂上に出られます。景観はそうとう良かったですが、
とにかく寒かったので長居は出来ませんでした(泣)

 塔の内部。中央の螺旋階段を上がって屋上へ。内壁は全面ステンドグラス(のようなもの)で外の光が存分に入ってきます。
 この写真を撮ろうとしていたら、上から降りてきたスカートの女の子と目があってあせりました(笑)


 このガラスのようなものでできた構築物、むか〜し「ポンキッキ」で出てたやつかな〜?
 当時は切実に「あの中に入って遊びたい!!」と思っていましたが、残念ながら大人は入っちゃダメだそうです。・・無念。5才位のブロンドの子供が実に楽しそうに遊んでいるのが印象的でした。

 こちらも子供がぶらさがったりして遊ぶようなものです。言うまでもなく大人はぶらさがっちゃダメだそうです。
 見張り(?)の人が誰もいなかったのでこっそりぶらさがってやろうかとも思いましたが、壊れたらいやなので断念。・・・無念。

 人間の体で造ったジャングルジムのようなもの(これは子供でも登っちゃダメ)。近くで見るとかなり
気色悪いです。

 
でかいぞ!!

 丸太とブロックのようなものを組み合わせてあります。
 写真には納まりきりませんが、もっともっともっっっっっと馬鹿でかいです。

 そのまんまですが、ピカソ館です。どこからどうみてもピカソ館ですな(笑)
 ピカソは僕もすっっっごく大好きな芸術家さんですが、この人の作品をある程度長い時間見てるとすごく疲れます。なんていうかひとつひとつの作品から、いちいちエネルギーがあふれてるような感じがするんですな。
 そのエネルギーこそがピカソの天才たる所以なんだろうけれど、我々のごときものがもろにふれると疲れちゃうんですかね。
 それにしてもこの人の多才っぷりはホントに驚かされます。水彩、油彩、陶芸、版画、彫刻にタペストリーまさになんでもござれ。ていうか興味のおもむくまま好きなようにやってたんでしょう。子供だったんですよね、多分。写真なんかみても、実際に子供に見えますな。

 館内のレストランで海老ピラフと季節のサラダを食べて、素晴らしく馬鹿馬鹿しい彫刻達に別れを告げる。今度はもう少し暖かい季節にまた来れたら嬉しいです。



4月12日 15時00分
 彫刻の森を存分に堪能したサトシは元の経路をたどり帰路へ。これから宿を探さなくてはならないので、もうあまりフラフラ道草をくう訳にはいきません。登山鉄道はたったの一駅ぶんなので、帰りは歩いていく事に。風はあいかわらず強目だけれど、寒くはないです。まだ3分咲き位の桜を愛でつつ10分程線路ぞいに散歩。ケーブルカーの駅へ到着。まだ発車までは5分程の余裕があります。煙草をくゆらせつつ時間をつぶしていたサトシの耳に不吉を告げる構内放送が・・・・

「この先箱根ロープウェイ、ただいま強風のため運行を停止いたしております。なおチケットの払い戻し〜・・・」

「!!・・・か、帰れない!?」

 サトシの行き先に暗雲が立ちこめつつあった・・・。



4月12日 15時30分
 まずは状況をしっかりと把握せねばなるまい、と思いとりあえずロープウェイの発着場へ移動。すでに先客のおっさん連中が、ロープウェイ側の係員と問答中だ。

おっさん「今日はもう動かないんですかね・・・?」
係員
「動きません!」
おっさん「あの・・・往復券なんだけど、払い戻しは・・・?」
係員
「出来ません!!」

超即答!
 慣れているらしいが、それにしてもとりつくしまもない。観光客相手の係なんだから、もうちょっと対応の仕方があるだろうにと思うんだけどね・・・。
 それはともかくどうやらここからの移動方は、タクシーか路線バスしかないらしい。これ以上無駄金を使うのは悔しいのでバスを使う事に。

 動いているのが不思議な位のおんぼろバスで、ぐやぐや曲がりくねった箱根の山道を走る。もともと乗り物に弱いサトシは完全にグロッキー。さらに次のロープウェイ乗り場では、高校生位の集団(彼等も足止めを食らっていたらしい)が大挙して乗り込んできて、車内はギュウギュウのすし詰め状態。
 サトシの体力が限界に近付いてきたその時、バスはようやく目的地(ロープウェイ乗り場から歩いて10分程度)へ到着。助かった! 一刻も新鮮な空気が欲しいサトシは、やはりここで降車した高校生の集団に混じってバスから転がるように出る。
 木陰で呼吸を整えながら、ふと考えた。・・・・これはもしかして・・・・
キセル乗車? 僕と一緒に乗って僕より先に降りた人は確かに料金を支払っていた。・・・確かに払ってたよな・・・。
 僕は集団にまぎれて降りてしまった→集団はみんなお金を払っていない→僕は集団の一員ではない→僕はただでバスに乗った・・。あわわわ・・・・こ、これは・・・・・
犯罪!? ま、いいか。往復券払い戻してもらえなかったしな・・・・(悪)


4月12日 16時00分
 ちょっとうしろめたい気持ちを抱えながら出発。予定外の時間をくってしまったため、早急に宿をきめなければならなくなりました。当初の予定では伊豆に移動して宿を探す予定だったのだけれど、この時間では間に合わなくなると判断して、もう一泊箱根で宿を探す事にしよう。
 しばらく流して素泊まりの宿泊施設の案内所を発見。おそるおそる近付いてみると、爺さんが二人将棋を指している。こっそり接近すると爺さんAがこちらに顔をむけた。
爺さんA「なにか?」
サトシ「素泊まり出来るところ探してるんですけど・・・・」
爺さんA「何人?」
サトシ「一人なんですけど・・・・・・・」
爺さんA
「あー、ダメダメ」
サトシ「・・・・・じゃ、いいです」
 まったく相手にされない。それどころか将棋相手の爺さんBなどは失笑している御様子。以下の会話はサトシの想像です。

爺さんA「まったく、近ごろの若者は世間知らずで困ったものですな」
爺さんB「まったくですな、この箱根で一人の素泊まりですか・・(苦笑)、王手」
爺さんA「ビジネスホテルかなにかと勘違いしておるんでしょう・・・その手待ってもらえないですかな・・・?」
爺さんB「待てませんな、・・・・ま、若いから仕方がないですか」
爺さんA「・・・・そういうものですかな・・・・・(長考中)」

 半ギレ!! この観光客なれした不遜な態度は一体なんなんだ? 箱根の宿泊案内の爺さんってそんなに偉いのか? もうここで宿をとるのはやめだ! 頼まれたって泊まってやるもんか!!


4月12日 16時30分
 怒りにまかせて箱根を出たはいいが、現実的に困った問題ではあります。とりあえず小田原方面へ車を走らせながら、サトシの頭はフル回転で次の行動を模索しています。
 この時一体どのような飛躍的な考えが僕の頭に浮かんだのか、今となってはさだかでありませんが、一つの結論を出しました。
「横浜だ!」
 「これから横浜に移動して、そこで宿をとろう」、そういう事になってしまいました。今こうして冷静に考えるとまったく訳が分かりませんが、とにかくその時点でこの考えは大変魅力的で合理的なような気がしたのです。完全にイカレてますね、我ながら・・・(汗)


4月12日 17時30分
 順番は忘れましたが、小田原、藤沢、茅ヶ崎、厚木あたりを流しながら横浜へ到着。ここまでくれば簡単なホテル位掃いて捨てる程見つかるだろう、という希望的観測に基づいてさらに市街地を目指す。
 それにしても車が多い。ちっとも先に進まない。おまけにみんな運転が荒っぽい。わずかな隙間にもねじ込むようにして車を進入させてくるし、信号でちょっとでもスタートが遅れるとすぐにクラクションが鳴る。田舎の方のナンバープレートを付けた車に対する優しさ等は微塵も感じられない。ていうか「わざとやってんじゃないの?」等と被害妄想にとらわれました。
 やがてどこをどう走ったのか、今度は一転住宅地に入っていってしまいました。こちらも道が狭いし、一方通行がやたらに多い。進めば進む程絶望的に静かな住宅街に導かれます。「このまま出口のない住宅街迷路をさまよいながら、疲れ果てて倒れるのでは・・・」等とまたしても妄想の虜になっていました。
 こんな事では宿泊先を見つける事など到底不可能だ。そう気付いたサトシは横浜の街から逃げるように立ち去りました。ここは僕のような田舎の子猿にとっては、まさに生き馬の目を抜くかのごとき地でした。さらば横浜、もう二度と車で立ち寄る事はないだろう。

4月12日 21時00分
 横浜から逆戻りしはじめてはや3時間。行くあてもなく、次に為すべき行動も決めかねたまま、見知らぬ土地をふらふらと迷い続けて3時間。ここに到って僕の体力気力共に限界に近付きつつありました。こうなってしまっては是非もない。車の中で寝るしかない、サトシは決断しました。この季節ではまだ寒いだろうけれど、このままではやがて事故をおこしかねない。
 しかしながら車の中で寝ると言っても、ここは何処とも知れぬ土地。下手なところに車を停めて、警察に職務質問とかされるのは嫌だ。うろたえてあらぬ事をしゃべってしまいそうだし、キセル乗車の罪で捕まっちゃうかもしれない。やはり高速へ入って何処かのPAにでも入った方が安心だろう。一番近い厚木ICへ向かう途中、僥倖としか思えない看板が目に入りました。

 
『厚木健康ランド 24時間入浴』

「これだ!!」まさに天のお導き!(と、いう程じゃないっすね・・・)
正確な名前が「厚木健康ランド」だったか今一つはっきりと覚えていないんだけれど、とにかくここなら体を伸ばして寝れるはずだし、なんと入浴まで出来るじゃないですか。さらにはおそらくビールも飲めるでしょう。車中一泊を覚悟していた(ビールをコンビニで買っていくつもりでした)サトシにとってこの環境はまったく申し分なしです。喜び勇んで「厚木健康ランド」(仮名)へ。

4月12日 21時30分
 こういう所へは始めて足を踏み入れました。とりあえずなにはともあれ風呂へ入って、汗を流す事にしました。
 やはり色々な種類の風呂が用意されています。超音波風呂(意味が分からないですね)、薬湯(スナック菓子「カール」のカレー味そっくりの臭いがした)、冷風呂(さすがに誰も入ってなかった)・・・・。なかでも圧倒的に気持ちが良いのが
八点式ジェット風呂です。めちゃめちゃ気持ち良かったっす♪

 サウナにも初挑戦しましたが、これはなかなか面白いものです。
 先客が5人程いました。僕が入った瞬間全員の視線が一瞬こちらを向きますが、「へっ、小僧のひやかしか」ってな感じです。すぐにみんなうなだれて、しかし注意深くお互いの様子をうかがっています。みんなかなり対抗心むきだし(みんなうなだれてるんだけどね)というのが、ひしひしと伝わってきて緊張感があります。こうなると僕も負けられないでしょう。少なくとも先客の一人が出るまでは意地でも出られません。出来るだけなんでもない風を装って、プロ野球の結果を見るふりをします。

「小僧のくせになかなかねばるじゃないか」
「野球の結果なんか見るふりしやがって、腰が座ってないぜ」
「こちとらサウナ歴20年よ、おめえさんみたいな小僧とは年季が違うんでい」

 そんな声が聞こえてきそうでしたが、みんなつらいのはハッキリと分かります。みんなしょっちゅう腰の位置を移動させるし、出口の方をちらちらと気にしています。ただし一人つるっ禿げの爺さんだけは、目をつぶったまままったく微動だにしませんでした。置き物か即身成仏ではないかと思えた程です。
 時間にしてみればわずか3分位のものでしょうか。ついに一人が立ち上がり、わざと清々しそうに顔を上にあげて堂々と退出していきました。絶対悔しかったはずですが、そんなそぶりも見せませんでした。僕もさらに1分程我慢して(後を追ってすぐに出てはみっともない気がしたのですね)退出しました。
 結果的には5分も入っていられませんでした。完全な敗北、惨澹たる結果です。こんな事ではフィンランド人に馬鹿にされてしまうでしょうね(笑)

 ビールを飲んでから1時に就寝。簡易ベッドでつかれたおっさん達のいびきに囲まれながら・・・・・。今日は本当にぐったりと疲れました。

4月13日 6時00分へ

めにゅうへ