奇妙な祭り 2
祭りのはじまり

「待ってくれよ、君」
青白い人々の間を早足で抜ける僕の背中に
孤独なペンギンはしつこく声をかけてくる
「そんなに怒らないでくれよ、君。大人気ないぜ」
また一言多いんだ、この孤独なペンギンは
僕の足下でネズミ花火が破裂した
微かな火薬の匂いが鼻をついた

「ねぇ、君」
僕はあきらめて足を止め、振り返った
改めて見ると、なかなか愛嬌のある面立ちだ
顎に生えているチョビヒゲが可愛らしくもある
それでも全体として暗い印象なのは
彼が孤独なペンギンだからだろうか?
「僕はいつだって星の動きが分かるんだぜ」
星の動き?
「どうだい?凄いだろ?」
確かに凄い事は凄い
僕は曖昧に頷いた
「おいおい、もっと感心してくれよ!」
「こんな事分る奴なんて、ちょっといないんだぜ」
まぁ、それはそうだろうけど・・・
やはり曖昧に頷くしかない
「例えばさ・・・」
孤独なペンギンは夜空を見上げる
ちょっとだけ真剣な目で
半開きの口元がおかしい
「あの西の方のアレね・・・」
夜空を指差す(指はないのだけれど)
「アレは『片腕猿座』って言うんだけど・・」
「わかるかい、君?」
「あの9つの星を繋ぐと」
「片腕の猿が天を指差してるようにみえるだろ?」
・・・・・どこがだ?
しかし長くなりそうなので、僕はやはり曖昧に頷いた
何処かから子供の泣き声が聞こえた

「あの3つ目の星がさ」
「そうそう、猿のわきのしたにあたるところだね」
「あれがさ、もうすぐ少しだけ東に動くんだぜ、君」
・・・・
僕は頷く事もしなくなった
「するとさ、どうなると思う?君?」
そんなこと分るはずがない
僕に分るはずがないと分っていて聞いているのだ
孤独なペンギンにしては意地の悪い奴だ
僕が何か言う前に、勝手に喋り出した
「ふふふ・・・」
「なんとね・・・・」
3番目の星が確かに少しだけ動いた
「東の方で鍋焼きうどんが流行るんだぜ!」
「どうだい!すごいだろ、君!」
凄い・・・とは思う
「つまりさ・・・」
「いつだって星の動きが分るってことはさ・・」
「いつだってこの世の事が全部分るって事なんだぜ、君!」
なるほど
それはそうかもしれない
それなら確かに凄いんだろう
けれど

「で、君は何が出来るんだい?」
僕にはなにが出来るだろう?
熱いラーメンを平気な顔をして食べる、ってのじゃダメだろうか?
僕が返答に窮していると
孤独なペンギンが怪訝そうな顔をする
「君だってこのフェスタに招かれたんだろ?」
「なにが出来るんだい?君?」

僕は無言で空を見上げて
銀色の羽をした天使を、しばらく眺めていた

僕はまだ奇妙な祭りの意味さえ知らなかった

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