サトウ歯科だより
2000−10 第29号


ごあいさつ:院長 佐藤俊一


歯ぎしりについて(佐藤俊一)

禁煙にチャレンジしてみませんか?
歯科衛生士 松本真由美/上野貴子




 

 

 

 

 

 

ごあいさつ 院長 佐藤俊一

「心頭を滅却すれば火もまた涼し」と昔のえらい禅僧はおっしゃいましたが、凡人の私にとって今年の暑さは格別で、文明の利器クーラーに頼りきりでした。
皆様にはいかがお過ごしですか?

ところで、気候にかぎらず、世の中自分の思い通りにいかないことが多すぎます。そのため、怒ったり、悩んだり、イライラしたりのストレスを抱え、またそれに耐えてきました。
中国の言葉で「切歯扼腕」とは、まさにその事で、歯がみをし、わが腕をにぎりしめて、はなはなだしく憤り残念がることをいいます。

日本人の発想では、お正月に食べるあの「ごまめ」にも感情移入したらしく、カのない者がやたらにいきり立つ事を「ごまめの歯ぎしり」とたとえられました。「ごまめ」ですら歯ぎしりするのだから、人は多かれ少なかれ、歯ぎしりをする事は、間違いではないでしょう。

話は変わりますが、テレビや映画で人気のある「踊る大捜査線」をみていますと、エリート捜査官である柳葉敏郎が自分の苦悩や感情を立場上オープンにできない時に、く“っと歯を噛みしめているシーンがでてきます。そんな時には顔面に咬筋やイ側頭筋などの筋肉の緊張した状態が浮いて出ます。たぶん、彼の場合は顔の皮下脂肪が少ないせいかはっきりと分かります。私自身、鏡の前でやってみましたが、顔面がふくよか過ぎるのか、筋肉が
細いせいか、彼ほどあらわには出てまいりません。

我々でも日常的に、仕事や家庭内で緊張のあるときや、また、ゴルフや野球の球を打つ瞬間など一時的に強く噛み締めることはあります。一時的な噛み締めならば、あまり問題はないでしょうが、もし何時問も続いたり、夜中じゅうずっと噛み締めていたらどうなるでしょうか?

今回は噛み締め、あるいは歯ぎしり(ブラギシズム)について話を続けてまいりましょう。










 
歯ぎしり(ブラギシズム)について


(適度の咬合カ〉
人が咬むカというのは、一体どのくらいのカなのでしょうか?
一般的には、自分の体重のカが歯にかかるといわれています。体重70kgの人ならば、 70kgのカが咬合力となります。
今の時代ならば、梅干の種を口の中で割る以外は、そんなに強いカで噛まなくとも食べるのにさして不自由はしません。現代食を食べる以上の咬合力があるのは、多分、硬い食べ物を生で食べたり、獣の皮を口でなめたりした太古の時代の筋力が、未だ現代人に受け継いでいるのかも知れません。今でも訓練次第では、前歯でビールの栓を抜く事はもちろん、自動車を引っ張ったりすることもできるのですから、すごいカです。
いずれにしても、かなり強いカで噛み続ければ、口腔内、口腔外にもなんらかの悪影響が出てくる可能性があります。若年者で、もし、歯や歯を支える歯周組織(歯肉、歯根膜・歯槽骨など)が丈夫な場合は顎関節が強いカを受けて顎関節症の原因のひとつにもなります。


一方、顎関節に抵抗力があれば、歯周組織にカがかかって、歯周組織の破壊を生じることもあります。顎関節や歯周組織に抵抗力のある人は、今度は歯の咬合面が磨り減って咬耗症になります。歯の表面は下図のようにエナメル質の硬い鎧がすり減らされると、象牙質は比較的早く磨耗し、ひどい場合には歯髄(神経)が露出するまで磨り減ります。さらに、上下のかみ合わせが低くなり、周囲の筋肉や顔貌まで影響を及ぼしていきます。(いわゆる老人顔)。
私が治療している患者さんの口の中には、普通の食事だけでは決してあたるはずのない歯面まで磨り減っていることがあります。それは、寝ているときなどに無意識に歯ぎしりしているとしか考えられない歯面の咬耗です。夜、歯ぎしりをしていないか聞くのですが、自分も気がつかないし、人から言われたこともない、という答えが返ってきます。
団体旅行などで同室の歯ぎしりで寝られなかったという経験の方もあるでしょうが、.音を立てない歯ぎしり(かみしめ)の人もあるようです。そのような歯ぎしりのくせある人を治療したときは、せっかく苦労して装着したセラミックの人工歯が欠けてしまったり、硬い金属でも磨り減ってしまいます。口腔内に入れた材料の硬さと歯の硬さが違えば、咬耗にムラができて咬合のバランスも狂ってきます。そうならないように、噛み締め、あるいは歯ぎしりのくせを治さないといけません。

(噛み締め、歯ぎしりの治療法〉
歯ぎしりの治療法には、自分で治す「自己暗示療法」があります。
誌面の関係で簡単に説明しますと、まず、自分が噛み締めていると認識すれば、それを止めるよう努め、夜知らないうちにやっているようならば、寝る前に自分に止めるよう言い聞かせます。寝入ってしまっても、やってはいけないという命令が脳内にインプットされています。例えば、明日早く旅行に出かけなければならない時など目覚ましをかけていても、それまでに自然と目覚める事などありませんか?
自己暗示療法については、院内にパンフレットを用意しておきますので、お申し込みいただければお渡しします。
その他の治療法としては、口腔内にマウスピースのようなものを入れることもあります。この歯ぎしりについては、未だ充分解明されているとはいえず、ストレスだけが原因なのか疑問が残ります。例えば乳歯の時でも、歯ぎしりをしている子供の口をみることがあります。大人と子供の歯ぎしりは同じ原因なのか。果たして「ごまめ」以外の動物も歯ぎしりをするのかどうか未だ謎だらけです。

 

 

 

 

 

 

禁煙にチャレンジしてみませんか?
歯科衛生士 松本真由美/上野貴子

病院に行くと、先生に「タバコは吸っていますか?」と問診されることがあると思います。これはタバコが身体になんらかの影響があるからなのですが、時々なぜか、歯科医院でも問診され、疑問に思っているのではないでしょうか。タバコで癌になる話は闇く事があっても、歯周病になる話は聞いたことがないかもしれません。

今回は、タバコの全身的影響及び口腔内的影響をお話ししていきたいと思います。
タバコにはタールやニコチンといった有害な薬物がふくまれており、色々な病気に関係したり、歯科治療においても、禁煙は抜歯や歯周外科処置の予後を悪くしたり、インプラント(人工歯根)の成否を左右する因子となっています。その他の一般に知られている影響を以下にまとめてみました。

(喫煙による全身的影響)

●肺癌にかかりやすい。
●循環器系の疾患にかかりやすい。
●胃、十二指腸潰瘍にかかりやすい。
●高血圧の者は動脈硬化が進行し、脳梗塞にかかりやすい。
●運動能力の低下。
●妊婦は低体重死出産、流産、早産、死産をしやすい。
●肌が荒れやすい、しわが増える。
●口腔癌にかかりやすい。
日本人の喫煙男性の口腔癌死亡は非喫火望者の3倍であるといわれています。
●歯周病の進行が早く、治療の効果が小さい。
喫煙によるタバコのヤニ、歯垢がつきやすく、歯槽骨(歯を支えている骨)が急激に喪失していきます。また、歯周病にかかる確率は非喫煙者の2〜5倍という報 告が一般になされています。
その他、歯肉へのメラニン色素沈着や、口腔粘膜の白斑(白板症という前癌病変)や口臭の原因の一つにもなっています。
また、主流煙(吸い込む煙)より副流煙(立ちのぼる煙)に2〜4倍の有害物質が含まれているので、子供の呼吸器感染の増加など、非喫煙者への影響も大きく、喫煙は自分だけの問題ではすまされないことも知っておく必要があります。
これらのことは、TVや新聞等でよく言われることもあり、喫煙者の中には体によいものではないと理解している方もいると思います。

それでもタバコをやめないのは、これらのことが100%という確率ではないために「まさか自分が。」と思う人が多いみたいです。
実際にそうなってみないとなかなか禁煙に踏み込めないようです。しかし、0%ではない限り自分もそうなる可能性があるのだという考え方に切り換えてみてください。特に女性の方は将来子供を産むつもりがあるなら吸わないく“らいの気持ちを持っていたほうがいいでしょう。

禁煙は何かきっかけがあれば成功するという話しを聞いたことがあります。今回この話を読んで、禁煙に関心をもったのならばこれをきっかけにチャレンジしてみるのもいいかもしれません。
ただ、急にタバコをやめるだけでは中々上手くいかないと思うので、禁煙開始に向けてのちょっとしたアドバイスを表1にまとめてみましたので、少しずつ気楽に始めてみて下さい。また、禁煙してもタバコに含まれるニコチンが習慣性をもつため、一週間ほどで表2のような離脱症状が出てきますが、対処法を参考にし、長くても2〜3週間ほどで消失するので、がんばって乗り切ってください。

<;表1>
@銘柄をおいしくないものに変える
Aマッチを使ったりタバコをくわえる手の位置を変え、吸いにくくする
B家の中で吸う場所を1箇所にするなど、時間・場所を制限する
Cタバコをどうしても吸いたくなる場所や時間を知る
E一緒に禁煙する仲間を見つける
E周囲の非喫煙者に禁煙することを伝えて協力してもらう
Fストレス対処法を身につける
Gタバコを吸いたくなったら水を飲むなどタバコのかわりを探す
H禁煙したことのある人は失敗した理由を思いだし、参考にする
Iタバコの買い置きはしない
J灰皿を空にしないようにして、吸殻の匂いの不快さをやきつける
K禁煙開始日の前日に残りのタバコ、ライター、灰皿を処分する
Lタバコの離脱症状と対処法を知っておく
M喫煙の再開は禁煙後1〜2週間に起こるが、これを乗り切れば離脱症状は消失することを確認する
O今日1日はタバコを吸わないでおこうと、軽い気持ちで禁煙にチャレンジする

<;表2><依存の種類>

 

離脱症状

対処法

ニコチン依存

タバコが吸いたい

散歩や軽い運動、深呼吸や水を飲むなどの代償行動を実行する

集中できない

禁煙後1週間は仕事を減らしてストレスを避ける

頭痛

深口乎吸をする、足を高くしてあおむけに寝る

体がだるい眠い

睡眠を十分にとる、昼寝、軽い運動、熱いシャワー,乾布摩擦

眠れない

カフェイン入りの飲み物を避ける、軽い運動をする、ぬるめの風呂に入る

便秘

水分を多くとる

心理的依存

口ざみしい

代用糖のガムや干昆布を噛む、歯を磨く

手もちぶさた

机の引き出しなどの整理、プラモデルの制作、庭仕事