サトウ歯科だより
2002−10 第33号


ごあいさつ: 院長 佐藤俊一

歯周病が全身に影響を及ぼす?!




 

 

 

 

 

 

ごあいさつ 院長 佐藤俊一

   猛暑も過ぎ、「天高く馬肥ゆる秋」となりましたが、皆様お変わりありませんか?
過日のニュースで「やせ薬」を飲んで死亡した事件がありましたが、何とかして痩せたいと願う人々の多いことがいまさらながらわかりました。
   痩せたいという目的には大きく分けて二つの側面があると思います。
ひとつは、痩せているほうがかっこいいというファッションの側面、もうひとつは、健康のために「太りすぎ」をなくすという目的があり、あきらかに異なった目的であります。ファッションの面からみれば、これは特に若い女性が多く、テレビのタレントのようなプロポーションになりたいと思って、実際にはそれほど太っていないのにもかかわらず、もっと痩せたいと思ってダイエットをしている例があります。人はしばしば不合理なことのために命すらかける好例だと思います。 ここで問題になるのは、特に中年過ぎからの肥満傾向であります。

  はるか遠い人類の歴史を振り返れば、多くの野生動物と同じように人はいつも食物にありつけるとは限らず、いったん食物を摂取すれば、脂肪として皮下に貯め込み、飢えと寒さなどに耐え、生き残れるように身体の仕組みを発達させました。長い歴史においてごくわずかの特権階級である王侯貴族を除いては、人は最近まで十分な食物を充たすことはできませんでした。今でも、アフリカなどの地域は飢餓の状態にあることを考えると「太りすぎで悩む」というのは本当にぜいたくな悩みであり、おおっぴらにダイエットを語る事ははばかれるべきことなのかもしれません。しかるに現代、日本は世界中より食べ物をかき集め、グルメと飽食の時代となっており、皆がかっての王侯貴族と同じような、むしろそれ以上の食生活を送っていれば、太らないわけにはいきません。
  そして過度の肥満は成人病を助長し、健康を損なう事になることは殆どの方はご存知のはずです。 かくいう私も毎年の健康診断で「太りすぎ」を指摘されています。(急に話のトーンは落ちますが)
本当は標準体重よりも12kg多いのですが、幸い20年前のスーツも着られるし、これといった病気もないので積極的には減量しておりません。それでも、いつも12kgの重りをしょって生活している事を想像すると身体に余計な負担をかけていることに間違いありません。
  自分自身のどこに太りすぎの原因があるか考えると一番気になるのは夕食です。
どうしても夕食の時間が遅くなりがちで、お腹のすいた状態で食卓の前に座ると、そこには大好きなお酒とおいしい料理があり、食事はまたストレス解消にもなり、食後には満腹感とアルコールの酔いと一日の疲れで眠くなり、すぐに寝てしまうこともあります。睡眠中、脳は、明日は食物が得られないかも知れないという昔からのプログラムにしたがってせっせと余剰のエネルギーを脂肪として体内に貯めこんでいくよう指令しております。
 この日常習慣を変えない限り、いくら減量の試みをしても、一時的には減量できてもリバウンドというもとの状態に戻る事は必定です。

  太りすぎのため、なんとか体重を減らそうと日夜努力されている方もおられと思いますが、お互い、無理をしないで、賢く、「スマート」にいきたいものですね。

 

 









 
歯周病が全身に影響を及ぼす?!   (歯科衛生士 松本真由美)

歯周病が口の中の状態を悪化させる病気だということは歯科医院やTVなどで知られていると思い ますが、歯周病が全身にも影響を与えることがあるということを皆さんご存知ですか?
今回は歯周病と全身や他の臓器に及ぼす影響についてお話ししたいと思います。  

歯周病の原因となるリスクファクター(危険因子)として、大きく分けて細菌因子、環境因子、 生体因子の3因子があげられます。

@ 細菌因子:歯垢の中にいる10種類の細菌が歯周病の発症に関係しています。       歯肉炎には歯垢や粘膜にいる細菌が関与し、歯周炎は歯周ポケットの中にいる嫌気性菌が原因といわれています。

A 環境因子:喫煙、ストレス、不規則な生活・食生活、口腔衛生習慣(ブラッシング)など毎日の生活習慣が歯周病の発症や進行に影響を及ぼしています。

B 生体因子:年齢、歯数、人種、遺伝、糖尿病、骨粗鬆症、薬物の副作用など全身の因子が 歯周病に関係しています。

図1

歯周病は自覚症状があまりなく、いつのまにか悪化しているというのが特徴です。 全ての歯に5mm程度の歯周ポケットがあるとすると、その内面積を合計すると約72平方センチにものぼるといわれています。
たとえ本人の自覚がなくても、そのポケットの中では細菌と体との果てしない戦いが繰り広げられているのです。

歯周病が全身に影響を及ぼすメカニズムとして、口の中の細菌自体が他の臓器に感染する 歯性感染症と、歯周病巣の細胞が過剰につくりだした炎症物質や過剰活性化した白血球が血管を 通って他の臓器に移行して影響を与えるやっかいなものもあります。
口の病気とあなどっていたらやっかいな病気を起こしかねませんのでご注意下さい。

図2 

■歯性感染症
歯周ポケットの中にできた歯石は、周囲の軟らかい組織を傷つけ炎症を起こします。 その際に細菌が血管内に入り込み、心臓弁膜症や腎炎を起こすことがあるといわれており 注意が必要です。  
また、細菌に感染することは、老人介護施設などの患者さんにとって死につながる深刻な問題 です。感染源としては、口の中、特に歯周ポケットが疑われていますが、実際、脳あるいは肝臓 の腫瘍から口腔細菌が見つかっていると報告されています。特に免疫力の低下した患者さんでは 口腔細菌による菌血症、敗血症が起こりやすいと考えられています。

■心臓血管疾患
歯周病菌によって歯茎に炎症が起こると、血液中の繊維素が増加して血液の流動性が悪くなり また、同時に動脈も硬化させます。その結果、血管内に血栓ができて心筋梗塞や心臓発作といった 病気が発症するのです。

■糖尿病
糖尿病の患者さんは、歯周病にかかると重症になりやすいことが知られています。
また一方で、その患者さんに抗生物質を用いた歯周病治療をすると、血糖コントロールの改善に 寄与することが報告されています。

■誤嚥性肺炎
これは食べ物や唾液が誤って気管支に入ってしまうために起こる肺炎のことです。
お年寄りや食べる機能に障害のある人が、眠っている間に唾液を誤嚥してしまい、唾液中に含まれている口腔内細菌によって肺炎を引き起こしているということです。
歯周病を放置したまま、しかも口の中が汚れたままになっていれば、このような人達が肺炎を 引き起こすリスクはさらに高まります。

■低体重児出産
歯周病にかかった母親は、早産や低体重児を産むリスクが高いことが報告されています。
研究では低体重児早産をした妊婦の羊水から歯周病菌が検出される頻度が高く、さらに この細菌は、口の中から血液を通して侵入した可能性が示唆されています。  
また、母親の歯周ポケットの炎症物質量は、正常児を出産した母親に比べると多いことも 妊産婦の口腔内調査によって明らかになっています。  

いかがでしたでしょうか?口の中の細菌が、虫歯や歯周病の原因だけではなく、全身に色々と 影響していく事が最近だんだんとわかり始めてきました。
今回は少し難しい内容もあったと思いますが、この記事を通して口の中を健康に保つことが どれだけ大切かがご理解いただければと思います。