「♪♪♪」

手にビニール袋を持ってスキップする栞。

彼女は上機嫌であった。

なぜなら、今日は彼女お気に入りの”バニラアイス”が大量に買いこめたからだ。

彼女が療養している片田舎の店では、栞が満足するだけのアイスが売っていなし、入らない。

そのため、入荷日に栞が買い占めると店にはほとんどなくなってしまう。

それだけのアイスを買ったにもかかわらず、ビニール袋1つだけというのは

謎なのだが、彼女にはポケットという格納庫があるため問題ない。

早く家に帰って、アイスを食べたい栞はいつもの道ではなく、森を抜ける近道を選んだ。

森を抜ける途中、銃声が聞こえた。

かなり近かった。

が、このあたりでは狩猟を趣味でやる金持ちもいるので、そういう音もまったく珍しくない。

気にしないで抜けていく栞であった。

頭にはバニラアイスのことしかないのだ。






トリガーを引くのは  第4話





「いらっしゃいませ〜。」

「おはよう、佐祐理さん。」

祐一と栞が腕を組んで喫茶かのんにやって来た。

わかる人にしかわからないが、舞の表情が厳しくなる。

「モーニング2つね、栞は飲み物なにがいい?」

「コーヒーでいいですよ。ミルク3つ分で♪」

「りょーかい。佐祐理さんそれでよろしくね。」

今日は2人なので、テーブル席にすわる祐一。

「いい雰囲気のお店ですね。」

「ああ、佐祐理さんの作るものはなんでもうまいし、最高の店だよ。」

「祐一さんは常連さんなんですね。」

「そう。なが〜い付き合いさっ。」

「そうなんですか・・・・・・・・・」

栞が暗い顔をする。

「どうした?」

「私、病気で学校にいったこともないし、スイスでもずっと1人だったから・・・うらやましいです。」

栞は外の太陽を見る。

「私、お友達とかいないから・・・・・・・」

悲しそうな栞。

「そんなことないさ。俺がいるじゃないか。」

祐一の言葉にとたんに明るい顔をする栞。

「そうですね、なんていったって婚約者の祐一さんがいますからね♪」

その言葉に手が止まる佐祐理と舞。

だが、佐祐理は一瞬止まっただけで、すぐに手を動かし出す。

舞は・・・・・・そうはいかなかったらしい。固まったままだ。

「だから、なんでそうなるんだ?」

「だって、昨日あんなに強く抱きしめてくれたじゃないですか♪」

パリーン。佐祐理は持っていた皿を落としてしまった。

ビシッ。舞は掃除をしていたテーブルにヒビを入れてしまう。

「あれは、君を護るために。」

「そう、私を一生護るために抱きしめてくれたんですよね♪」

栞の初恋はとまらない。

さすがに、”結婚”の2文字を出してくる女の子に祐一は手をださない。

縛られる気はまったくないからだ。

「おまたせ・・・・」

舞がモーニングセットを持ってくる。

その視線が祐一にグサグサと音を立ててささる。

「とりあえず、食べよう。」

話題をなんとか変えようと祐一はコーヒーを口にする。

が、ものすごく辛い。変な味がした。どうやら、タバスコが大量に入っているようである。

祐一は無言で佐祐理の方えを見る。しかし彼女はにこにことしているだけだ。

あとで弁解するのが大変だと思いつつコーヒーを流しこみ、水でうがいをする祐一であった。







喫茶店を出た祐一達は、遊園地に向かった。

体の弱かった栞は、こういうところに来たことが無かったそうだ。

はしゃぐ栞。祐一にはもう一人の妹が出来たような感覚であった。

笑顔で腕をひっぱる栞。

ティーカップのテーブルを一生懸命回す栞。

バランスをくずして、アイスを落としてしまい、涙ぐむ栞。

”平穏”ってこういうものなんですね、秋子さん・・・・。

祐一は思わずにいられなかった。

しかし、その祐一達を遠くから見ている視線を感じてもいた。

黒服の男が3人。

遊園地にはにつかわない格好があたりから浮いている。

朝からずっとついてきているようだ。

とりあえず、いまのところは手を出してくることはないだろうから、祐一も楽しむことにした。

そして5時になり、夕食のためにレストランへ向かい、食事をする。

さて、どこで仕掛けようかと祐一が思案していると、

「ちょっと、寄りませんか?」

帰りがけに栞が公園を指差した。

夜の公園に入ってく2人。

あいているベンチを見つけ、腰をおろした。

「今日は楽しかったです。」

「あぁ、俺も楽しかった。」

「よかった。初めてのデートが祐一さんとで。」

赤くなる栞。

「正直な話、私、初恋なんです。空港で見たときに、この人だって思いました。

  変に思われるかもしれないけど、ほんとうに一目ぼれでした。」

「恋なんてそんなものだよ。突然やってくるものさ。」

「そうですよね。祐一さんとは前世とかで縁があったのかもしれません。

 でも、今は・・・祐一さんには好きな女がいるんですよね?」

「・・・・・・・・ああ、いる。」

「そうですか。そんな感じがしてました。初恋は実らないっていいますし。」

「そうかもな。」

初恋は実らないという栞の言葉に祐一は一人の女性のことを思いだしていた

「私も明後日にはお見合いして、結婚しなくちゃいけません。」

「うん。」

「だから・・・今日の思い出にキスをください。」

栞は静かに瞳を閉じる。

少し躊躇したが、祐一も瞳を閉じて栞にキスをした。

数秒後、離れる2人。

「もうすこし、ここにこうしていたいんですけど。」

「うん。いいよ。」

となりでベンチに腰掛けていた栞が、祐一にもたてかかってきた。

その重さを感じる祐一。

しばらくして、

「すぅ〜、すぅ〜、」

栞の寝息が聞こえてきた。

もとから体が弱いのに、あれだけはしゃいでは疲れるのも当然だ。

よほど楽しかったのだろう。

いや、楽しかったのは祐一も同じである。

名雪と一緒に出かけても、こんな気分にはなれない。

秋子さんに似ているために、どうしてもそういう気持ちになれないのだ。

「ありがとうな、栞。」

そっと髪をなでる。

「・・・祐一さん・・・・・」

栞の寝言にいつまでもこうしていたい祐一だったが、そうもいかない。

例の3人組がベンチの前に立っていたからだ。

もちろん接近を祐一は気づいていた。

「その女をこちらに渡してもらおうか。」

真中の長身の男が低い声で言った。

「お姫様はお休みですよ。ご用があれば明日にしていただきたいですね。」

「こちらとしても、こんなところで騒ぎを起こしたくない。黙って渡してもらおう。」

男達は拳銃をちらつかせる。

「なるほどね。でも、渡せないな。」

「なっ!?」

祐一のセリフとともに、長身の男の首筋に切先がむけられていた。

いつのまにか、男の背後には舞が立っていたのだ。

「・・・魔は討つ・・・・」

舞の殺気に気おされる3人の黒服。

「まだやるかい?」

「くっ・・・」

おとなしくなる3人。

「さてと、誰に頼まれたのかな〜」

「それは答えれない。答えたら殺される・・・。」

「それは、欧州のある組織なんじゃないか?」

祐一の言葉に3人は反応する。

「なぜ、それを・・・」

「優秀な情報屋がいるからな。」







<昼・遊園地にて>

RRRRRRR

「はい、もしもし。」

「祐一君、調べ終わったよ。」

「で、」

「とくになし。強いていえば、栞ちゃんの見合いの相手が、お見合いを嫌がってるということかな?」

「なぜだ?」

「う〜んと、なんでも好きな人がいるかららしいよ。でも、父親にその事をいったら許してもらえなかった

 みたい。別にその女と付き合ってるわけじゃないみたいだけどね。まあ、片思い中ってやつだよ。」

「なるほどね。栞が命を狙われるほどのものじゃないな。」

「でもね、そのスジの情報によるとね、イタリアのマフィアが日本人の女の子を狙ってるって噂だよ。」

「イタリア?」

「うん。で、自分の組織から3人ほど刺客を送ったって。それから1人凄腕を雇ったって話だよ」

「狙われてるのが栞だという根拠はあるか?」

「その3人が来日したのが、栞ちゃんが帰ってきた日なんだよ。」

「そうか・・・わかった。サンキュ、あゆあゆ。」

「あゆあゆじゃないもん!」






「殺すだけなら、わざわざ出向かなくても・・・」

そういいながら、舞に目配せをする祐一。

「あの狙撃をかわしたヤツに、狙撃でなんて無理だからな。」

「で、なんで栞を狙う?そのわけを聞かせてほしいな。」

「それは・・・・・」

男が何かを言いかけたが、急にその男は倒れた。

男の背後にいた舞は伏せている。

次いで、左側の男が倒れた。

「はやく逃げないと撃たれるぞ。」

祐一の言葉もむなしく、残る1人もその場に倒れた。

「祐一・・・・」

舞が駆け寄ってくる。

「向こうのビルの屋上だ。俺達を撃つ気はないらしい。」

祐一は、はるか向こうのビルを指差した。

「そう・・・・・」

舞は自分の服についた砂を払う。

「それにしても、この状況でも起きない栞もすごいな。」

栞の頭をなでる祐一。

それを見る舞はムッとする。

「佐祐理と名雪に報告・・・・・」

「?何を??みんな無事だぞ?」

「キス・・・・・・」

舞の言葉に息が止まる祐一。

そういえば、舞に影ながら護衛を頼んでいたのにあんなことをするなんて・・・・・・・・。

後悔しても、時既に遅しな祐一であった。

「・・ゆういちさぁ〜ん・・・・むにゃ・・・・」






<つづく>


遅くなりました〜
ごめんなさいです。
でも、今回はちょっと長めになりました。
掲示板に感想を書いてくださった方、ありがとうございます〜
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あゆ「うぐぅ・・・ボクの出番すくないよぉ。」
秋子「私なんて、前回ちょっと出ただけよ。」
あゆ「ボク達作者に嫌われてるんだ・・・・」
秋子「だって、あの人栞ちゃんや名雪ばかり書いてるもの。」
あゆ「佐祐理さんも好きっていってたよ。」
秋子「もう、私の出番はないのかしらね・・・・」
あゆ「ボクなんてただの情報屋・・・・」
秋子「こうなったら、作者に贈り物でもして、気をひきましょう。」
あゆ「たいやきでも送る?たしか邪道にもクリームが好きっていってたよ。」
秋子「そんなインパクトの薄いものじゃダメだわ。」
あゆ「?」
秋子「アレにしましょう。」
あゆ「そっそれは!」