丹下左膳餘話・百萬兩の壺

 たんげさぜんよわ・ひゃくまんりょうのつぼ 昭和10(1935)年/日活京都作品/91分

 構成・監督:山中貞雄、(原作:林不忘、脚色:三村伸太郎)、撮影:安本淳、音楽:西梧郎
 出演:大河内傳次郎、喜代三(きよぞう)、沢村国太郎、山本礼三郎、宗春太郎、高勢実乗、鳥羽陽之助、花井蘭子、深水藤子

 現存する作品では最古のもの。とは言うものの、山中貞雄の全キャリアからいうともう後期に差しかかっている。タイトルはフルネームで呼ばれることは少なく(書物など正式タイトルを記す必要性がある場合以外)、「百万両の壺」というのが普通。「雁太郎街道」「国定忠治」につづくトーキー三作目。

 もしあなたが山中貞雄の映画を全く見たことがないのなら製作順に「百万両の壺」「河内山宗俊」「人情紙風船」と見ていくことをお薦めします。日活から発売されているビデオ、LDはフィルムセンターに保存されている、現存するもっとも状態の良いプリントからマスターを採ったもの。その保存状態は昭和初期の日本映画の中では驚異的な綺麗さで、当時何をいってるのかを聞き取るのが精一杯だった日本のトーキー映画のなかにあって唯一日活だけが導入していたアメリカから輸入された音声方式ウェスタン・エレクトリック・システムの水準の高さを確認することが出来ます。なにしろ「百万両の壺」は奇妙な喋り方で何を言っているのかよくわからないことで有名だった大河内伝次郎のセリフのほとんどがハッキリと聞き取れる貴重な映画なのですから。
 画面に日活のマークが現れた途端あなたは山中ワールドの虜になること間違いなし。あなたの映画人生で初めて尽くしなことばかりです。先の読めないストーリー展開、当時のスター俳優による怪演ぶりに驚かれることと思います。二枚目スター沢村国太郎(長門裕之、津川雅彦の父)の超三枚目ぶり、屑屋コンビ高勢実乗、鳥羽陽之助の容貌を見て笑わない人はよっぽど神経のおかしい人でしょう。そして大河内伝次郎を初めて見る方はそのかわった口調にビックリされることと思います。当時の日活の看板女優花井蘭子、深水藤子も華を添えています。山中作品独特のローアングルでルーズな構図の映像にも酔いしれて下さい。

 ビデオ:日活、キネマ倶楽部(廃盤)
 LD:パイオニアLDC(「山中貞雄と日活明朗時代劇」として「河内山宗俊」「赤西蠣太」「鴛鴦歌合戦」とセットで発売)(廃盤)
 DVD:日活(2004年5月7日発売)

 

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