第45回 指導と評価大学講座
■研修期間  平成15年7月29日〜7月31日 午前9時30分〜午後4時30分
■会 場  日本教育会館(東京:神田)
■主 催  (社)日本図書文化協会/(財)応用教育研究所/日本教育評価研究会

1日目
新しい教育課程における教育の課題                             (財)応用教育研究所所長 辰野 千壽
教育評価の基礎基本                                              文教大学学長 石田 恒好
意欲の育成とアセスメント                                            筑波大学助教授 桜井 茂男
総合的な学習でどう学力を向上させるか                           教材・授業開発研究所代表  有田 和正
2日目
これからの学力向上策                                         尾道市立土堂小校長 陰山 英男
学習評価の改善                                                                  京都女子大学教授 北尾 倫彦
シンポジウム
3日目
心を育てる道徳教育                                               千葉大学助教授 諸富祥彦
育てるカウンセリングと教師のリーダーシップ                              東京成徳大学教授 国分康孝
「ゆとりある教育」から「みのりある教育」へ                                  東京大学教授 市川伸一


第1日目

◇講義1  新しい教育課程における教育の課題      
                       講師:辰野千壽(応用教育研究所所長 元筑波大副学長,上越教育大学長)
1 教育の重要な課題
 (1)確かな学力の形成
  ・基礎・基本を確実に身につけ,それをもとに「自ら学び自ら考える力」を育成する。
  ・思考力や判断力,さらに学ぶ意欲を伸ばし,「役立つ学力」の育成を。
 (2)心の教育
  ・豊かな人間性(自律・協調・思いやり・感動の心など)の育成…道徳教育の充実
2 教育の心理学的基礎〈2つの学習理論〉
  
行動学習理論 認知学習理論
研究の対象  観察できる対象  観察できない内的過程,認知構造
学    習  行動の変化  内的過程・認知構造の変化
レディネス  育てる(教師主導)  成熟を待つ(学習者中心)
学習意欲  外発的動機づけ  内発的動機づけ
学習の成立  反復練習と強化  理解と認知的フィードバック
学習の方法  反復練習と強化  理解と認知的フィードバック
指導の方法  画一的指導  教授技術の多様性
教   材  教師の教授に役立つもの(教材)  子どもの学習に役立つもの(学習材)
評   価  画一的評価  多様な評価
折衷理論  ・認知的行動理論(認知の変化は行動理論の原理によって起こる)
 ・伝統的な教科中心及び教師中心の指導法に学習者中心の特徴を加える。

3 今日の教育の問題点…行動理論を軽視し,認知理論に走りすぎ
 (1)個性の誤解
  ・個性には望ましい個性と望ましくない個性がある。
  ・個性は社会の中で形成されることを忘れて,子どもの現在の個性をすべてよいとし,わがままや利己主義を認め,独善
    的なことや非社会的なことさえ個性のあらわれとして容認する傾向 
 (2)適応理論の誤解
  ・欲求の充足は善であり,欲求の阻止は悪であると考え,欲求不満を生じさせない過保護なしつけや甘い教育
  ・困難への耐性が不足 
 (3)自発性・自主性の誤解
  ・子どもの自主性・自発性・自由をはき違え,過度に重視する。  
  ・教師の指導を軽視し,学習者中心主義の指導へと傾斜する。
 (4)「子どもに学校を合わせる教育」から「学校を子どもに合わせる教育」への行き過ぎ
 (5)教育改革の動向
  ・英・米・仏などでは学力低下が問題となり,個性尊重から画一化の教育への回帰が見られる。
  ・ゼロトレランス方式の確立(米国)97年クリントン大統領:秩序の乱れから「寛容性を認めない」教育へ。日本で言う「教
   育的配慮」無用論。校則破りは即,罰則
4 自己統制力の育成…今日の教育問題解決のために
 (1)自己統制力
  ・自分の感情や欲求・行動を自分で統制・制御(忍耐)し,自分の行動を正しい方向に向かわせる力
  ・主体としての自己と客体としての自己の認識
 (2)自己統制力の育成
  ・規律あるしつけ…家庭,学校,地域
  ・自己理解…自己を客観的に見る能力(メタ認知能力)
  ・困難への挑戦…忍耐力
  ・模倣(モデリング)…親や教師,地域の人を見て育つ
  ・意図的形成…自己統制プログラム(目標設定→自己監視→自己評価→自己強化)を意図的,計画的に訓練する場を設
   ける。どんな行動にも目標を持たせる。
 (3)自己制御学習力の育成
  ・自己制御学習
   学習過程を自分で統制・制御する。学習目標の達成を目指し,目標設定,方略設計,自己監視,自己評価,自己調整な
   どのメタ認知的活動を行う。
  ・自己制御学習のステップ(チマーマンら 1996)
    ステップ1:自己評価と自己監視→学習者が自己のレディネスを理解し,何ができるか判断する。
    ステップ2:目標設定と方略設定→具体的学習目標を設定し,それを達成するための方略を計画する。
    ステップ3:方略実行と監視→計画した方略を実行し,それを自己監視する。
    ステップ4:実行結果の監視→結果が学習結果にどのように影響したか調べる(自己評価)
5 学習方略の指導(学習習慣の形成,学び方の学習)
 (1)学習方略の内容
  ・学習の仕方を教え込む。習慣形成を。
 (2)形成の時期と方法
  ・小学校低学年から,条件付け・模倣などにより効果的な学習方法を習得させる。
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◇講義2 教育評価の基礎・基本              
                     講師:石田恒好(文教大学学長 元文部省指導要録改善調査研究専門委員)
1 教育評価とは
 (1)教育評価 《教課審答申「児童・生徒の・・・・評価のあり方」は必携,必読》
  ・教育によって生じた児童生徒の人格や行動などの変化を,一定の価値基準(目標基準と集団基準,個人基準)に照らして
   判定することを中心に,その変化の背景となっている諸条件(教師   の指導力,本人の努力,物的・人的学習環境)の価
   値をも判定し,改善しようとする営み。 (橋本重治による)
 (2)教育測定
  ・評価資料を収集し,事象(習得状態,実現状況)を明らかにし,数量的に表す操作
  ・テストは測定であって評価ではない。評価のための1つのデータに過ぎない。
  ・様々な測定技術を身につけ,評価に生かす……評価情報の収集につとめる。
 (3)評 定
  ・事象を明らかにし,あらかじめ設定した基準に従って点数や記号等を付与する操作
 (4)教育評価上の留意点
  ・基礎・基本の定着が目的…指導要領の最低基準性に基づく。指導と評価の一体化を目指す。
  ・教師の指導力
  今まで(相対評価)はあまり問われなかったが,現在(絶対評価)では教師の指導力が問われる。なぜ実現できなかったかを
  十分反省し,未到達の子(保護者)への責任ある教育的対応を。
  ・終末評価と過程評価の両方を大事にする。
   終末のみに重点を置くのではなく,短いスパンでの確認,調整を。学習の過程での評価(確認と調整),そして終末での評価
   (反省と次への改善)
  ・導入時評価の重要性
   新しい単元に入るとき,それを受け入れられるレディネスがあるかどうかを評価する。ないと判断すれば復習をしてから新単
   元に入る。ガイダンス
2 教育評価の目的
 (1)指導目的(教師にとって)…指導の反省と改善→指導のし直し→目標の達成
 (2)学習目的(児童生徒にとって)…学習の反省と改善→学習のし直し→目標の達成
 (3)管理目的(管理職にとって)…人的,物的学習環境の整備
 (4)研究目的→指導法の評価,カリキュラムの評価など
3 教育評価の手順
 (1)評価目標の設定
  ・指導目標の具体化,明確化…本時レベル,単元レベル(これがどこまでできるかが絶対評価の成否を握る)
  ・評価目標は指導目標から抽出…観点別に,具体的に(目に見える:行動目標)
 (2)評価資料の収集
  ・毎時レベル,単元レベルで特に目立った子を記録にとどめる。
  ・今までの資料のとり方も絶対評価で行っていた。(例:○○ができたかできなかったか)
 (3)評価資料の解釈
  ・評価規準…質的な拠り所(目標レベル:つけたい力)
  ・評価基準…判定の拠り所(目標基準・集団基準・個人基準)〈量的に判定〉
   「これなら私でも測れる」という具体性→教科書の中身まで入り込んで作成
  ・実は,今までも絶対評価で解釈していた。(例:面積の求め方が理解できたかどうか,実験結果をきちんとまとめられたかど
   うか,など)絶対評価はそれを日常化させ,積み上げるだけのこと。
4 指導と評価の一体化
 (1)反省と改善
  ・指導結果の値踏み…「うまくいったか,いかなかったか」(指導の確認と調整)
  ・「指導法の改善」が評価の目的ではない…「目標の達成」が目的
  ・目標達成のための「Plan計画」→「Do実践」→「See評価」
  ・終わっても力がついていなかった…それは「学習」ではなかった。(教育か遊びか)
 (2)基礎・基本の徹底
  ・教師:指導のし直しができているかどうか…お母さんの100点
  ・児童生徒:学習のし直し…単元レベルで実施(素早い手当)
 ○関心・意欲・態度のとらえ方…自分で,進んで,集中して,持続して,実践する。
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◇講義3 意欲の育成とアセスメント         
                                              
講師:桜井茂男(筑波大学助教授)
1“自ら学ぶ意欲”のとらえ方
 (1)“自ら学ぶ意欲”の源泉
  ・知的好奇心という欲求…生まれながらに持つ欲求,個人差大:学習意欲の中核
  ・有能さへの欲求…もっと有能になりたいという欲求:知的好奇心を母体とする。
 (2)安定した“自ら学ぶ意欲”に必要なもの
  ・「おもしろい」「楽しい」と感じる気持ち
  ・有能感…自分はできるんだ,という気持ち
  ・自己決定感…自分のことは好んで自分で決めるんだ,という気持ち(有能感が高まると必然的に生まれる)
  ・他者からの受容感…自分は周囲の人から受容されているんだという気持ち,周囲の人(保護者や教師,友だち)がサポート
   することが必要
 (3)“自ら学ぶ意欲”の現れ ―学習行動―
  ・挑戦…少し難しいことに挑戦しようとする。(今より進歩したい)
  ・情報収集…興味を持ったことの情報を集める。(これは問題解決のためだけでなく,問題を発見するためにも)
  ・独立達成…自分の力で問題を解決しようとする。(有能さを感じていることの裏付けでありできなければ自分からサポートを
   求めてくる)
2“自ら学ぶ意欲”のアセスメント
 (1)教師による子どもの観察
   観察,面接や提出物の点検などが中心,子どもの自己評価も参考になる。教師の主観は思いの外正当である。根拠を持っ
   た主観であれば。説明責任を果たす。   
 (2)質問紙による
  ・目的を明確にした質問の作成(素人ではなかなか難しい)
  ・子どもの気分のすぐれているときに実施
  ・教師と子どもの信頼関係があることが正確な結果の前提
 (3)子どもの自己評価
  生涯学習の時代にあってはとても重要な能力,小3ぐらいから訓練によって培う必要がある。これからの人間には不可欠な
  能力  
3“自ら学ぶ意欲”の発達
 (1)目標が持てない子…知的好奇心を揺さぶることが効果的(おもしろい授業) 
 (2)将来的な目標を持たせる…自己実現のために学ぶ,嫌なことでも取り組む(自ら学ぶ)
 (3)有能感を持たせる…安定した意欲が継続して発揮できる。有能感が欠如すると自己を否定し始める。
4“自ら学ぶ意欲”の育て方(有能感を育てる)
 (1)先生による指導の基礎
  ・子どもの状況をしっかり理解する。生育歴や心理検査も参考になる。 
  ・先生が子どものよきモデルとなる…意欲的な教師の学級は子どもも意欲的
  ・おもしろく楽しい授業で子どもの“自ら学ぶ意欲”を刺激する…小学校レベルでは特に。
 (2)他者からの受容感を育てる
  ・教師からの受容感…自分のことを考えていてくれる。
  ・親からの受容感…兄弟と比較しない。
  ・友だちからの受容感…認め合える学級作り
 (3)有能感を育てる
  ・学力をつけることがまず重要…基礎・基本の学力
  ・成功経験を持たせる…自信
  ・努力できるように援助…努力の過程を見守る(わからない子には努力のし方を教える)
  ・個人内評価,絶対評価で評価する…自分が望むなら相対評価も励みになる
 (4)自己決定力を育てる
  ・親の過干渉,過保護を是正する。
  ・外的な報酬に依存させない。
  ・自己評価を取り入れる。
 (5)自我同一性を育てる
  ・自分を見つめる機会をつくる。
  ・教師の人生を語って聞かせる。
  ・伝記を読ませる。
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◇講義4 総合的な学習で学力をどう向上させるか
                      
                  講師:有田和正(教材・授業開発研究所代表)
1 総合的な学習で学力をつけるには
 (1)教科の授業を充実させる…これだけはなんとしても教えたい。
 (2)新しい授業を行う
  ・オープンエンドの授業
  ・自ら?を発見して追究する子ども
 (3)育てたい18の学習技能(学習方法の基礎・基本) 
2 総合的な学習で求められている学力
 (1)問題解決の方法・態度を身につけること
  ・問題のとらえ方  ・ものの考え方  ・問題追究の仕方
 (2)金子みすヾ的ものの見方考え方
  ・忍者的味方…見たもの・学んだものを倍増する力,地域を忍者のような目で見る,好奇心の固まりのような目で見る
  ・見えないものを洞察する力…見えないけれども見えるんだよ(赤道が見える,地の中が見える,海の中が見える)
  ・浮世絵的見方…鳥の目,虫の目,人間の目(ミクロの目,マクロの目を自在に)
 (3)教科で学んだことを応用発展
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第2日目

◇講義5 これからの学力向上策       
                                           講師:陰山英男(尾道市立土堂小学校長)
1 私が考える学力低下問題
  ゆとり教育が原因ではない…カリキュラムの問題ではない,別の原因を考えねばならない。学校6日制の中で学力低下問題
  は起きた。
2 低下したのは学力だけではない
 (1)低下している子どもたちの体力
  ・低下したのは学力だけではない。
  ・50m走の年次推移が男女とも右肩下がり…朝から大あくび,背骨がぐにゃり
 (2)低下している子どもの気力
  ・不登校の増加…目的意識を持たない子
 (3)荒れる子ども
  ・94年(ゆとり教育で小学校を送った子どもたちが中学生になった頃)を境に校内暴力が増加,96年からは不登校の増加,計
   算力も94年を境に右肩下がり
 (4)子どもの元気の低下
  ・自ら考え,自ら学ぶために必要なものの第1は「子どもの元気」
  ・6日制に戻したからといって解決する問題ではない。
3 子どもの元気を取り戻す実践(学力低下は子どもの元気の低下)
 (1)生活アンケートからわかったこと
  ・意外に多い朝食パン派,家族がばらばらな夕食
 (2)学力と食事の関係
  ・たくさんの食材で作られた食事をしている子は学力が高い。
  ・十分な睡眠と食事
 (3)睡眠時間とテレビゲーム
  ・父の帰りが遅い,遅くなった就寝時刻(遅くなった時間を埋めるのはテレビかゲーム)
  ・年間授業時間数708時間 
  ・1日2時間TVを見ると年間730時間
  ・主要4教科の年間授業時間400時間 1日1時間あまり せめてTVを見る時間ぐらいの学習を(宿題の必要性が出てくる)
 (4)家庭への啓蒙活動
  ・食事と睡眠の問題点を家庭の協力で改善していく。
  ・家庭の協力は得られるはず
   「ほんとうの学力をつける本」は実は家庭教育批判を書いた本。それを「そうだ,そうだ」と言って読んでいるのは母親である
   という事実
  ・学校を批判するのではないという意識の芽生え(私の本が300万部売れた事実)
4 読み書き計算の反復がもたらす学習能力
 ○「突き抜け現象」が期待できる
  ・ある日突然子どもの能力が高まる現象
   国語の苦手な子(漢字も読めず,教科書が読めない子)が「大造じいさんとがん」を暗唱した。
         (単純な内容を徹底的に繰り返し)
   →やればできる(自信)→突き抜け現象が起こる→他教科へも波及
  ・単純な内容を徹底的に繰り返し:私の教材作りの原則
 (1)読み
  ・音読がもたらす脳の活性化,音読によって脳は最大限活性化する。
  ・なぜか暗唱の得意な子は音読の苦手な子
  (教科書を見ないで言えばすらすら言えるが教科書を見ながら読むとつかえる子)暗唱と音読は脳の違う部分を使う。
 (2)書き
  ・漢字学習のコペルニクス的転換(新しい指導観)…漢字学習は前倒しして短期集中で行う。(4年で習う漢字を3年終了の春
   休みに宿題とする。その学年で習う漢字を7月までに覚えるなど)
  ・漢字指導の工夫…部首と熟語で覚えるなど。(土堂の先生:いろいろな覚え方を紹介し,子どもたちが一番好きな方法を採
   り上げて実践)
 (3)漢字習得のレベルアップを目指す理由
  ・漢字指導を前倒しすることで読書の範囲が広がる。(漢字ばかりの本でも読める)
  ・熟語指導に時間をかけることで語彙が増える。
  ・語彙が増えることで言語活動が高まる。
  ・そのことで基礎基本の多様性が期待できる。
 (4)計算
  ・高速な成長が可能な計算力…百ます計算(同じ数字の並びで2週間→タイムは半分に
   →倍の速さに→子どもに自信をつけさせる。
  ・百ます計算…5分の集中が残りの40分を変える。(百ます計算をやったあとの授業は分かりやすいという子どもたちの声)
  ・「できる」という経験→「わかる」という経験へ
5 揺るぎなき基礎基本を多様性に転化させる
  ・体験学習の重要性→実験・観察の復活を。「針穴写真機」:子どもに自然の不思議さ,人間の探求心のすばらしさを教えてく
   れた。
  ・体験学習は時間がかかる。しかし授業時間は減った。パソコンをはじめ,新しい学習への対応もある。読み書き計算の習熟
   による授業の効率化はここから始まった。
    →5分の集中学習が40分の体験学習を広げる。私はそう考えて実践してきた。
  ・基礎基本もゆとりもどちらも大事→限られた時間でどう進めるかが問題
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◇講義6 学習評価の改善     
                                  
講師:北尾倫彦(京都女子大教授 教育課程審議会委員)
1 学習評価改善の必要性〈なぜ評価改革が必要なのか〉
 (1)学力の質の変化に対応する
  ・「量」ではない。株価のように「上がった,下がった」と語るべきでない。
  ・「学力の低下」ではなく「学力の悪化」と考えたい。
  ・興味や関心を欠く子が多い。
  ・思考力や判断力が育っていない。
  ・学力の崩壊が進んでいる…今まで「浅薄な学力」を育ててきた。受験学力のバブルがはじけた。
   「1年たったらすべて忘れてしまう」
 (2)指導形態の多様化に対応する
  ・知識伝達型の授業だけに頼らず,体験的に学ぶ授業が増えてきた。
  ・一斉画一型の授業形態だけでなく,選択型や少人数指導授業が増えてきた。
  ・新しい授業に対応する評価法を。
 (3)学校の説明責任の明確化に対応する
  ・評価活動の公開
  ・学校に問われる責任の中心は子どもの学力保障(説明責任と「成果責任:教育当事者の責任」)
  ・学校評価と学習評価は密接に関連しており,評価の透明性を求める声が強くなる。
  ・どこから批判されてもびくともしない評価活動の構築
  ○教育目標(評価目標)を吟味することが必要。
2 目標準拠評価の規準と基準
 (1)評価規準(どういう力をつけたいのか〈能力〉)の具体化と一般性
  ・具体的に(簡潔に,項目を絞って)
  ・重点化(代表性:これとこれとこれが身につけばそれで十分)する→これが教材研究の中心(公 開授業の指導案には目標
   が多すぎ,どれも抽象的である)
  ・代表性(重点主義)…この単元の学習が成立したと見なす場合,どうしても欠かすことのできない力は何か。
  ・教師にしかわからないものではなく,子どもも保護者もわかる。(具体的な表現)
  ・子どもや保護者にも公開
 (2)評価基準の決め方
  ・個々の評価目標の評価基準は,学習の質の良さから質的に決める。(上質であるかどうか)
  ・質的評価
   「B:登場人物の心情を一通り理解している」 「A:登場人物の人柄までも理解している」
    *人柄までも理解できるほど深い読解ができたという事実を表現している。
  ・質的な基準がしっかりできているかどうか。
   簡単な事例を付け加えておくと誰でも評価できる。教科書の中身まで入り込んだ表現を。
  ・ルーブリック評価(質差の状態を想定)が最適,パフォーマンスを評価する。
    作品・論文・行動・発表・実験や観察のクオリティの良し悪し
    *陸上・水泳と体操・フィギアスケートの評価の違い
     …陸上や水泳は誰もが納得する基準がある。
     …体操やスケートの審査員は細かく決められたルーブリックにより採点している。
  ・量的評価…総括における評価基準は達成率によって量的に決める。(どれだけ習得できたか)
 (3)教師の評価と標準学力テストの結果の食い違い(調査:北尾)
  ・教師が評価について勉強している学校では食い違いが少ない。(適正な評価が実践)
   そうでない学校では食い違いが大きい。全体的に教師の評価が辛すぎる。
  ・第3者評価との比較による補正を。例えば標準化学力検査
3 学習評価実践上の諸問題
  ある番組で「評価の雑用が増えて時間がない」と言われた。「雑用とは何事か,評価は最も大事なこと」学校は学力をつける
  場,それ以外の何ものでもない。
  とは言うものの負担の軽い方法でなければ長続きしない。
 (1)評価資料の収集
  ・授業中にはしてはならない。
   観点を絞って授業に臨み,AとCの子だけを終了後直ちに記録しておく。多くて数名であろう。
  ・事前にこの観点は第2時,この観点は第5時というふうに決めておく。
  ・単元に入る前に評価の重点化をしておく。
  ・子どもの学習の様子をじっくり見ることができる場面(作業や発表会)では生の資料をとっておく。観察
  ・これからはパフォーマンスアセスメントが増えてくるだろう…発表・行為・作業・ワークシート・作文など
 (2)評価技法の特徴を生かした開発…深い学力が定着するような評価技法
  ・ワークシート…計画・結果・自己評価を書き込む形式(PDSがきちんと入っている)
   自己評価を積み重ねることで正しい自己評価が可能となる。
  ・子どもの自己評価,ワークシート,感想文,作品などを積極的に利用
   絶対評価と個人内評価の組み合わせ 
  ・評価資料の累積…教師の判断を誤らせない(資料の累積:ポートフォリオ)
  ・たまった資料を選別する能力を身につける。
  ・テストの開発…何を調べるテストか?(評価の目的) 観点別テストの開発
 (3)評価結果の総括
  ・Cをつけてはいけないという学校の雰囲気(神話)
  ・関心意欲態度にお情けでBをつける。教育的配慮?
  ・感傷的(教育的配慮)には疑問である。評価基準に照らしてCはCである。
  ・単元別の観点別の評価が正しく反映する評定を。
 (3)総合的な学習の評価
  ・課題や分担が異なるので公平な評価ができないのではないか,という声
   →求同より求異の評価(観点は共通,評価は選択的) 自己実現プロセス評価
  ・何を資料とするか
   →個人の自己実現を示すものを。
  ・2つのタイプの評価
項 目 目標準拠評価 目標準拠評価
 目 標  画一的(求同) 個人的(求異)
スパン 短期的 長期的
表 示 数値的表示も可能  文章による表示 
評 価 客観性の重視 自己認識の重視
理 論 教授的論 発達的論

  ・自己実現プロセス評価…人との違いを自覚することが社会的な自分の役割を自覚することにつながる。
                                                                このページのはじめに戻る   

◇講義7 シンポジウム ― 個に応じた学力向上と評価の改善 ―  
   コーディネーター            石田恒好(文教大学学長 元文部省指導要録改善調査研究専門委員)
   シンポジスト        
      北尾倫彦(京都女子大教授 教育課程審議会委員)
                          工藤文三(国立教育政策研究所 教育課程研究センター総括研究官)
                          鈴木 彬(筑波大附属中学校)
                         古内利勝(福島市立森合小学校長)
― 北尾倫彦 ―
  ・標準学力検査の結果をどう指導に生かすか。
   →どういう力が足りないか。それは誰なのか。
  ・検査結果から
   →基礎基本がついていない子が明らかになってくる。
   →どういう力が足りないのか,どういう指導をするのか,その結果はどうか
   →習熟度別指導(少人数指導)で対応する。
  ・思考力が弱い子
   →情報が手に入れられない子が多い。情報収集能力をまず伸ばす。
  ・表現力の問題
   →記述問題に白紙が多い。子どもの周囲の表現も低レベル(最近の言葉づかいや若者の会話)
  ・テスト開発(自作テスト)
   →内容をあるテストを。何を検査したいのか。
  ・「関心・意欲・態度」―学習状況の記録であるから,課題ごとにきちんと評価する。
   →まじめだ,発言が多い,宿題を忘れない→間違った評価,内面理解を
  ・関心があれば,意欲があれば,態度に表れる→知識・理解
  ・習熟度別指導
   →「下位グループの子がかわいそう」は,教師の思い違い
   →子どもはわかりたいと思っている。わかる場がほしいと思っている。
  ・習熟度別指導の中身が問題→指導の目的に応じた学習形態を。
    指導の工夫(子どもと同じ視線で・言葉遣い・賞揚)
  ・個別指導のスキル確率を
― 工藤文三 ―
  ・教育課程実施状況調査報告(教科別)から…既に市販されている。
   →文学教材…教師は価値がある教材と回答するが子どもは嫌いと回答
   (教師と子どもの教材観の食い違い)教師の教材の価値観と子どもの受け止めの食い違い
  ・単元を見通し,見直す…後でふり返るという学習を。単元ごとのふり返り,学期ごとのふり返り,1年間のふり返りを。学力定
   着を図る。
  ・学習活動が指導案のメインになっている例が多い。どんな力をつけたいのか?
  ・「指導性」と「自発性」…「じっくり待つべきだ」「教えなければだめだ」の区別を。
  ・総合的な学習…学習内容からどんな資質や能力が身につくかを十分検討
  ・学習の共通性(基礎・基本:教えるべき内容)と個別性(生きる力)の区別を。
  ・発展的な学習の評価結果…指導要録の所見欄に記録しておく。
  ・1時間ごとのチェックは形成的評価で…即座に指導に生かすため
― 鈴木 彬 ―
  ・問題解決学習で,どこまで教えてどこから子どもに考えさせるか
   →個によって異なる。実態を把握
  ・自己評価できる子を育てる。
  ・「関心・意欲・態度」を子どもに持たせることができたかどうか…教師が評価されるべき  
  ・「テストノート」…やり直し→なぜ間違ったか→自己確認→類題を作る→相互に解き合う(ノートに累積していく)自己評価の
   一つの方法
  ・本校では発展的学習の評価基準を作成中
― 古内利勝 ―
  ・学力フロンティアスクールに指定されている。
  ・学力向上に取り組んでいる。
   →4月にNRTを実施し,実態を把握する。1月末にCRTを実施し,指導の成果を確認  
  ・NRT(領域別)…実態を把握
  ・CRT(観点別)…成果を確認 1月末に実施し,次年度までに補充する。
                                                                このページのはじめに戻る   

第3日目

◇講義8 心を育てる道徳教育       
                            
                    講師:諸富祥彦(千葉大学助教授)
1 道徳で育てる「生きる力」 
 (1)自己決定能力,自己選択能力……自分作りの力
  ・どんな自分になりたいか,どんな人生をおくりたいか
  ・広い意味での「進路教育」「キャリア教育」
  ・学力以前の問題…新入社員の3分の1が3年以内で退社
 (2)問題解決能力
  ・「進学→就職→結婚→出産→」という幸福の一般的なルートが崩れ去った現在
  ・文科省→「生きる力」は自分でつけなさい,と言っている。
  どんな人生を送りたいのか,時代から取り残されないように
   →自分の生き方を自分で考える力を育てる。
  ・そのために必要な力→問題解決能力
 (3)自己表現能力
  ・解決したことをプレゼンテーションする能力
    →自己をアピールできる人間
   いくらまじめでも物言わぬ人間→評価されない時代(リストラの対象)
  ・3分で自己表現できる能力が必要 
2 時代の変化と道徳教育
  
時代区分 時  代  性 教   育 流   行
  〜昭53 ・まじめ,ガンバリズム
・高度経済成長期
・豊かさのために手を取り
 あって進む
・教育そのものがやりやす
 かった
・社会規範を身につける
・徳目主義でよかった
・山口百恵
・巨人の星(思いこんだら試練の道を)
・あしたのジョー
・ど根性
昭53〜平3 ・自分主義の時代
・豊かな社会の実現
・自己主張の時代
・自分を大切に
・自己実現の時代
・おもしろい子が人気者
・時代に合わなくなった道徳
 をやっていた
・富士見中の葬式ごっこ
・松田聖子
・いいたいことを言う
・ギャグマンガ
・AKIRA
・トレンディドラマ
平3〜 ・政治不信,不景気,リストラ
・脱力主義の時代
・こつこつタイプが評価されない時代
・多様化する道徳
・まじめな子が浮いてしまう
・一生懸命はよくないこと
・ルーズソックス,だぼだぼズボン
・間の抜けた言葉づかい
・パフィー,宇多田ひかる
・ドラッグ,セックス

  ・日本の文化の変化と大衆心理の変化
  ・現在の学校では,それぞれの時代に育った子が保護者になっている。
    …山口百恵型,松田聖子型,宇多田ひかる型の母親
  ・時代の変化…それに対応する「生きる力」が求められる。
  ・近未来に対する理想や希望がない
    …ほんとうにしたいこと,なすべきことは何か?
  ・生きる理由が見いだせない
    …つらくても○○があるからがんばれる,○○のためにがんばっているんだ。
  ・感動の道徳を学期1回は実践してほしい…教師の感動体験をぶつける。
3「心を育てる」道徳教育の4つの視点
   新しい道徳…自己の心を見つめる
 (1)自分自身との関わり
  ・教育の最大の目標…自己肯定感,自己有用感を育てること
  ・学級づくりが鍵となる
 (2)他者との関わり
  ・自己肯定,他者肯定,アサーティブな人間関係
  ・言うべきことが言える
  ・きれる子…集団の中で耐えて耐えて耐えている。そしてきれる。
   言うべきことが言えない子,友達の主張を聞けない子
  ・学級全体が1つの具体的なことに向かっている…荒れた学校の回復
 (3)集団・社会との関わり
  ・人間は他から認められ,役立つと感じたとき生きる喜びを感じる。
 (4)人間を超えたものとの関わり 
  ・自分を見守ってくれているもの…例:星,涙を拭いてくれる枕
  ・畏敬の念…どこかで誰かがあなたを見つめている。
                                                                このページのはじめに戻る   

◇講義9 育てるカウンセリングと教師のリーダーシップ       
                                               講師:國分康孝(東京成徳大学教授)
《私の論点》
1.「なぜ育てるカウンセリングか?」
  結論:今の日本のスクールカウンセリングは「治すカウンセリング」中心であるが,
      「育てるカウンセリング」の普及が必要である。│
2.「なぜリーダーシップか?」
  結論:今までのカウンセリングは1対1の部屋の中でのカウンセリングだと思われてい
      るが,そうでない形態が必要である。そのための教師のリーダーシップ。

1 育てるカウンセリング
 日本に初めて伝わったのはロジャーズのカウンセリング。それは1対1で話を聞く という心理療法的な形態であった。カウンセリング=心理療法という認識が広まった。
 子どもの発達課題をめぐる援助活動を「育てるカウンセリング」という。心理的疾病を治療する「心理療法」の対象概念
 3日や4日の講習会で心理療法を勉強してきて,それを学校で使っているという実態は医者の物まねをする素人集団。学校は病院ではない。臨床心理士の資格を持たない教師が箱 庭療法,遊戯療法,投影法心理検査など実施すべきでない。
 ・臨床心理学(心理療法士)…専門家の領域:精神疾患を治療する〈治療〉
 ・カウンセリング心理学(カウンセラー)…教師の領域(教師のなすべきこと)
  ごくふつうの子の発達課題(友だちとうまくいかないで困っている,将来が決まくて困
  っている,親とうまくいかなくて困っている等)をめぐる諸問題を援助〈予防〉
 ・両者の区別をはっきりさせ,どう連携させていくかを考える。
 ・教育もカウンセリングもどちらも知っている,そんな教師が学校教育に最も向いてカウンセラー

 (1)育てるカウンセリングの必要性 
  ・カウンセリングは心の病気を治すのではない。ふつうの子が困っている発達課題を解くための援助をする。
  ・5つの発達課題…学校がこれらに対応する
   〈学習指導に関わる課題〉
   〈進路指導(人生設計)に関わる課題〉
   〈性格の育成に関わる課題〉 ・ごくふつうの子が持つ課題
   〈社会性の育成に関わる課題〉 ・教師が行うべきこと
   〈心身の健康教育〉…養護教諭
   〈組織の中でどう生きるか〉
  ・問題の未然防止…心理療法士にゆだねる前の予防
 (2)育てるカウンセリングの特長
  ・心理療法士と異なり,「能動的(待っているのではなく,こちらから働きかける)」「グループ志向(個別面接ではない)」「現在志向」
   である。
  ・予防的カウンセリングであり,学級作り,学校作りの基盤
2「グループ志向」のカウンセリング
  ・1対1のインドアのカウンセリングではなく,学校の教育活動すべてをとらえて実施するカウンセリング
  ・教師は,子どもの心がわかるだけでは不十分。現実・原則を認識させる(例:我慢するところは我慢させる)ことが大事
  ・教師には集団をリードする能力,一人ひとりをケアする能力が求められる。
■5つの方法
 (1)構成的グループエンカウンター
  ・ふれあいの欠如…人との接触を拒否(不登校,いじめ,家出など様々な問題)
  ・ふれあい体験と自他発見をねらいとするグループ体験→自己と他者の理解(人付き合い)
  ・自他一体感があるときが最も落ち着くとき(母胎で10ヶ月母と一体であったという事実)
    …〈稲村博士:心の絆療法「自分をわかってくれる人がいる」〉
  ・自己理解できない子の増加…自己疎外(自己肯定感の欠如)
  ・自己を語っていくうちに他と異なる自己の良さに気づく(自己肯定感の芽生え)
 (2)キャリア・ガイダンス(人生設計学)
  ・先を見て今を生きる…時間の流れの中で今を生きる
  ・グループ体験を通して自己発見や外界理解,そして人生計画を促進する。
 (3)サイコエデュケーション(心の教育)
  ・講義やワークショップやメディアを介して思考・行動・感情を豊かにする方法。集団を対象とした予防的・開発的カウンセリング
  ・傾聴能力とともにスピーチ能力が育つ。
 (4)グループワーク
  ・運動会や生徒会への参加体験を通して,思考・行動・感情の社会化を試みる。
 (5)対話のある授業
  ・シェアリング(自己開示)の精神に支えられた授業のこと。
 ○ まとめ:教師の求められる3拍子そろった能力
    …「集団をまとめる能力」「集団を動かす能力」「一人ひとりをケアする能力」
■グループの構成要素
  …1対1のカウンセリングからの脱却。リーダーはグループの構成要素に対応しなければならない。
 (1)役割関係
  ・権限と責任,役割の多様化
 (2)感情交流
 (3)コミュニケーション
 (4)力(他者の行動に影響を与える力)
 (5)下位グループ
■リーダーの任務
 (1)グループをまとめる
  ・グループの凝集性を高めるために
   「グループの規範を作る」…まとまりのある集団
   「子どもの欲求に答える」…目標に向かう過程で子どもが何を求めているかを読みとる。
 (2)グループを動かす
  ・目標に向かって動いていく。
  ・目標の提示(目標は全員達成できるよう具体的に),集団を動かしながら個別のケア
  ・リーダーシップのある教師…子どもにとって意味のある,達成可能な目標を絶えず立て,それに向かった進んでいく教師
                受け身的になる時,打って出る時を使い分けられる教師
 (3)メンバーを育てる
  ・メンバーの興味・関心を拡大するための指導法
   シェーピング,モデリング法,自己開示
  ・ロジャーズ→聞くだけがカウンセリング(それでは不十分)
■リーダーの条件
 カウンセリングの知識と人生経験が必要
 (1)自己開示
  ・子どもに自己を語る。
  ・思考,感情,事実(やっていること)をオープンにする勇気。リレーション(関係作り),洞察,模倣(ヒントを得てまねる)の意義。
  ・自己開示し合う(シェアリング)
 (2)自己主張
  ・他を説得したり命令したりすることに罪悪感を持たない。
  ・子どもにとって教師が依存の対象となるように→ここぞというときは命令
  ・打って出るカウンセリングも必要…聞いてもらってわかってもらっただけでは解決しない問題もある。
  ・きついことをいって気を悪くするかもしれないが,君のために一言言いたい。
  ・一言居士が必要
                                                                このページのはじめに戻る

◇講義10 「ゆとりある教育」から「みのりある教育」へ  〜これからの学力をどう育てるか〜       
                                                   
講師:市川伸一(東京大学教授)
1 教育改革と学力低下論争
 ○ 初等中等教育における「教育改革」
  ・教育改革のスローガン
    「ゆとり」の中で「生きる力」を育む   学校のスリム化,地域に開かれた学校
    児童生徒の興味関心,学校の創意工夫
  ・具体的な施策
    完全週5日制  内容の厳選  総合的な学習
  ・教育改革路線への評価と批判
    教師主導の積み上げ型教育からの脱皮は評価  「ゆとり」の意味と使い方
    基礎学力保障と多様な教育プログラム
 ○ 学力低下の指摘
  ・大学生の数学能力低下  高校生の学習時間減少 有名大学の合格ライン落ち込み
 ○ もう一つの「学力低下論」
  ・着目する学力
    見えにくい能力(思考力・理解力・表現力)
    学ぶ力としての学力(学習意欲・自己学習力)
  ・学力低下の要因
    学習観,学習様式の変化(子どもを取りまく社会・文化環境の変化)
    初等・中等教育における指導方針の変化(歪められた「支援」主義・「指導」の軽視)
    受験産業の安易な対応(「傾向と対策」的受験情報,楽にこなせる教材)
2 認知心理学から見た学習と授業
 ○ 基礎へ降りていく学び
  ・目的的行動の過程で「必要感」を持って基礎を学ぶ。
  ・実践性,実用性の重視
  ・学ぶことの意義の明瞭性
    例:語学,コンピュータ,統計学
 ○ 基礎から積み上げる
  ・学問体系に沿った系統的な学び
  ・「役立つ」までの時間的隔たり
    内発的,外発的な動機づけの導入
  ・その意義
    あとから役立つ可能性  「なりたい自己」と「なれる自己」の拡大
    体系的知識による経験の整理と関連づけ  
    学習のモニタリング
3 学ぶことの意義が伝わる学習環境
 ○ 学びの文脈と開かれた学び
  ・学びの文脈
    自分は今ここで何のために学んでいるのか。ここでの学びは自分の将来とどう関わるのか。
    自分の学びは他者や社会とどう関わるのか。
  ・開かれた学びとは
    学校時代の学び→自分の将来へ  教科学習の学び→広い知的活動へ
    学校での学び→地域社会,実社会へ
○ 学習環境
  ・機能的学習環境
    学習者にとって,学んでいることの意義が見えやすい学習の場の設定
4 学力低下をどう乗り越えるか
  ・人に教えることを通して学ぶ
    考えさせる授業…知識がないのに考えられない
    教えてから考えさせる。
    教えただけはわからない。
    「考える」…みんなで考える
                      自己評価
5 人間力とは
 ○ 文化生活(大人の生活)…教科学習 
 ○ 市民生活 …社会参加(総合的な学習) 三位一体
 ○ 職業生活 …職業理解(キャリア教育)
                                                                  このページのはじめに戻る
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