行動記録
12月21日(成田17:05発―ヒューストン13:45〜15:55―グアヤキル24:00)
12月22日(グアヤキル13:40―キト2,850m 14:20)
12月21日、ヒューストン発の飛行機は視界不良のためキトへ着陸できず、グアヤキルへ降りてしまう。翌22日にグアヤキルからキトへ飛ぶ。
12月23日 晴(キト07:20―コムナ・パソチョア3,550m 08:40―パソチョア4,199m 10:40〜11:00―コムナ・パソチョア12:30―キト14:00)
今回の旅行期間中はずっと、登山ガイドも車の運転もディエゴである。彼とともに、高度順応のためパソチョアに登る。キトから登山口のコムナ・パソチョアまでは車で1時間20分。山麓にあるアマグアニャ近郊の集落から標高3,300mの水力発電施設までは石畳の道だが、その先は悪路である。登山口のゲートを開けて牧場に入り、南へ進むと尾根に出る。標高3,900mのゲートの下を潜り抜けたら尾根を離れて、パソチョアの東面を巻くように登っていく。沢を渡ってから、斜面をまっすぐに登れば山頂に着く。コトパクシ(5,897m)やアンティサーナ(5,758m)が良く見える。山頂の北西側は幅2km、長さ6kmの馬蹄形をした火口だ。火口の中はアンデス原生林の保護区であり、ピューマもいるらしい。往路を引き返して、キトへ戻る。
12月24日 曇 標高4,500m以上は霧(キト07:00―標高4,150m 08:40―グアグア・ピチンチャ4,794m 10:30〜10:50―標高4,150m12:15―キト14:30)
グアグア・ピチンチャで高度順応活動を行なう。車でキトからリョアまで行き、さらに悪路を標高4,150mまで登る。車道は標高4,550mの山小屋まで続いているが、今日はここから歩くことにする。チュキラグアの橙色の花畑を登る。「この花は煎じて腹痛の薬にするんだ。」とディエゴが言う。山小屋から左へ登ると標高4,650mで火口縁に出る。雲の中に入ってしまったので、火口の底は見えない。火口縁を右の方へ30分進めば、標識が立った山頂である。岩尾根をたどって5分でもう一つのピークに着く。こちらの方が標高は少し高い。車へ戻り、キトへ帰る。
12月25日 曇ときどき晴(キト06:20―カレル小屋4,800m 10:30―ウィンパー小屋5,000m 11:10〜11:30―カレル小屋11:50―リオバンバ2,750m 14:00)
キトから車で4時間走って、チンボラソ登山口のカレル小屋に着く。小屋へ登る道路は、タクシーでも通れる良い道だ。標高4,000mまでは村や牧場があるが、その上は所々に背の低い植物が生えただけの荒野である。チンボラソ周辺は動物繁殖保護区に指定されており、ビクーニャを良く見かける。家畜のリャマに近いが、もっと小さくて野生である。エクアドルのビクーニャは植民地時代に一旦絶滅したが、1980年代以降チリやペルーから移植されたそうだ。カレル小屋からウィンパー小屋まで歩いて往復してから、車で山麓の町リオバンバへ下りる。
ホテル・チンボラソ・インテルナシオナルに泊まる。このホテルは町の西の高台にあるので、リオバンバ市街地を挟んで東方のエル・アルター(5,319m)やツングラフア(5,016m)の眺めが良い。これらの山の向こうは、もうアマゾンの熱帯雨林である。町の中には、1995年1月に東京スキー山岳会の7人パーティでチンボラソへ来たときに泊まったホテル・モンテカルロや、駅の隣の怪しい遊園地、それにインガピルカ遺跡から夜遅く帰ってきたときに店主・従業員もろともドンちゃん騒ぎをしたピザ屋などがそのまま残っていて、懐かしい気分になる。
12月26日(リオバンバ滞在)
12月27日(リオバンバ12:40―カレル小屋14:00)
12月28日 晴(カレル小屋06:30―チンボラソのウィンパールートの標高5,500m 09:30―カレル小屋11:00〜11:45―リオバンバ13:00)
高度順応のため、チンボラソの標高5,500mまで登りに行く。12月27日はカレル小屋に泊まって、28日の6時30分に出発する。ウィンパー小屋から左の西稜に登るのが山頂アタックに使うエル・カスティーリョルートだが、今日は右の南西稜(ウィンパールート)へ向かう。下部を往復するだけならウィンパールートの方が落石や雪崩の危険が少ないし、氷河ではないのでクレバスに落ちる心配も無い。
標高5,200mでアイゼンを着ける。標高5,350mで南西稜に出た後は、尾根伝いに登る。尾根の北西側はきれいに雪がついていて、スキーで滑っても楽しそうだ。しかし、高度順応活動で疲労を蓄積したくなので、今日は歩いて上り下りするだけである。9時30分に標高5,500mに着く。この先は標高5,600mにある脆い岩壁帯からの落石が多いので、登高は終わりにする。
カレル小屋へ戻って、リオバンバへ帰る。
12月29日〜30日(リオバンバ滞在)
リオバンバで休息。年越しの祭りのため、町の中には連日フォルクローレ舞踏団のパレードが繰り出して賑やかである。
12月31日 晴 標高5500m以上は雲に覆われている(リオバンバ14:15―カレル小屋15:45〜16:15―ウィンパー小屋17:00〜23:15―)
1月1日 晴(―チンボラソのベインテミリャ峰6,267m 06:45〜07:00―ウィンパー小屋10:00〜11:00―カレル小屋11:20〜12:00―リオバンバ13:30)
チンボラソのアタックに向かう。12月31日の午後、リオバンバからカレル小屋まで車で登り、45分歩いてウィンパー小屋に着く。夕食後3時間仮眠し、22時に起きる。夜食を取り、23時15分にスキーを担いで小屋を出発する。
西稜をめざして浮石の多い斜面を登ると、標高5,300mで氷河末端に着く。ここは上部の岩壁からの落石が多く、我々の50m前方にも大音響とともに石が落ちてきた。大きな岩の陰に逃げ込み、急いでアイゼンを着ける。
クレバスや露岩のために凹凸が激しい斜面を登る。雪は硬くてラッセルは無い。ディエゴが5m先行しながら同時登攀する。クレバスがありそうな所へ来ると僕を待たせておいて、ディエゴだけがザイルを繰り出しつつピッケルで雪面を探りながら登っていく。僕に対して「確保しろ」といった指示は無いが、トップがクレバスに落ちても、斜面が急だからセカンドが突っ立っていれば止められるということだろうか。ディエゴは危険地帯を抜けると、ブーツアックスビレイのような簡単な確保をして僕を登らせる。
標高5,500mで西稜に出た。エル・カスティーリョという岩峰の少し上の所だ。時刻は2時である。北東の風が吹きつけて寒いので、フリースジャケットとマウンテンジャケットを着る。ここから上は、スキーをロープで引きながら登る。西稜上には2〜3ヶ所の平坦地があり、その直前は急斜面になって幅50cmほどのクレバスが口を開けている。クレバスはスノーブリッジで渡れる。先行パーティが2組いたが、途中で引き返してきた。我々の後ろには6人パーティが1組いるだけだ。標高5,700mで僕の足取りが重くなったのを見て、スキーはディエゴが持ってくれることになった。
4時に、高さ3m〜4mの氷の壁で上下を挟まれた平坦地に着いた。幅3mの大きなクレバスが雪で埋まったものらしい。ルートはクレバスの右端から中へ入って左端へ抜けている。標高は5,800mだ。ディエゴが「スキーは重い。」と言うので、ここへ置いていくことにした。
標高5,800mから上は、西稜から北西稜にかけて幅300mにわたって広がる大斜面になる。幅50cmから2mまで大小様々なクレバスがあちこちにあるが、明瞭なトレースをたどればクレバスを渡るのに苦労することはない。ごくたまに赤旗も立ててある。大斜面に出た頃から、体に力が入らなくなってきた。20mほど登っては膝をついて一休みするという状態だ。もう登るのはやめようという誘惑にかられるが、まだ夜明け前なので、今引き返したらスキーは担いで下りるはめになる。幸い頭痛はしないので、がまんして登り続けることにする。
1時間ほど経つと、疲労感がすっと消えた。「高度順応の壁」を越えたのだろうか。富士山へ登るときにも、ときどき同じような経験をする。8合目あたりで強い疲労や眠気に襲われるが、登り続けているとそれが解消することがあるのだ。
標高6,150mに幅2mのクレバスがあり、トレースはスノーブリッジを求めて左へ迂回していく。このクレバスを越えると、高さ1mのシュカブラで凹凸の斜面になる。6時を回って、すっかり明るくなった。振り返ると、雲海にチンボラソの三角形の影が映っている。
傾斜は緩み、6時45分にベインテミリャ峰に着く。最高点のウィンパー峰(6,310m)は距離にしてまだ500m先で、往復1時間は掛かる。体調も視界も良いうちに滑降に取りかかるため、登りはここまでにした方が良いだろう。北の方には、コトパクシ(5,897m)、カヤンベ(5,789m)、アンティサーナ(5,758m)が並んでいる。南東に目を向ければ、いつもは雲に覆われている秘峰サンガイ(5,230m)が珍しく姿を見せている。
7時45分に標高5,800mまで下り、スキーを履く。ディエゴは「スキーは危ないからやめた方がいいんじゃないか。」と不満げに言い残し、1人で先に下りてしまった。そのため、滑降の様子を撮影してくれと彼に頼むこともできない。クレバスの位置を確かめてから滑り始める。尾根の幅はわずか10mで、傾斜は所によって40度あるが、ガリガリの氷で摩擦が良く効くので怖くはない。15分で標高5,500mに着いて、スキーは終わりだ。上部の大斜面を滑れなかったのは心残りだが、マッキンリー北面カナディアンルートの滑降に備え高所で細くて急な尾根を滑ってみるのが今回の目的だったので、納得のいく山行であった。
標高5,500mから氷河末端までは、再びスキーを担ぎ、ディエゴとザイルを結び合って下る。カレル小屋から車でリオバンバへ戻る。
1月2日(リオバンバ滞在)
1月3日(リオバンバ15:00―キト19:00〜23:00―)
1月4日(―ヒューストン05:24〜10:40―)
1月5日(―成田15:40)