山行記録

5月8日

ロータン峠(3,978 m 09:00)〜ロータン峠の東の4,600 m峰直下(11:30)〜ベアス川源流の標高3,450 m(12:30)〜マリー夏村の下の橋(12:45)

マナリからロータン峠まで車で登る。片道2時間の道のりである。除雪が済んで峠が開通するのは例年6月らしいが、今年は雪解けが早い。車はスズキ・ジムニー。インド名はマルチ・ジプシーである。インドでは、スズキの車が目立つ。山奥ではジムニーとエブリィが7割ぐらい、街中ではアルトが1割ぐらいを占めている。

ロータン峠からは、チャンドラ谷をはさんでラホールの山々が良く見える。峠を境にして気候はがらりと変わる。乾燥したラホールの茶色の山肌と、緑に覆われたマナリ周辺の山とが対照的だ。

峠の東の4,600 m峰を目指す。急斜面を2つ過ぎ、カールの底に着いたところで一休みする。大きなマンゴーがうまい。ガイドのラメッシュが、ラホールの山のひとつを指差して「あれはタラパハール。僕の祖父の名前だ。」と言う。彼のおじいさんは、タラパハール初登隊のガイドだったらしい。しかし、地図で見るとその山は結構遠くて、ここから見えるのかどうかは疑問だ。

さらに、標高4,550 mまで登る。その上は傾斜が急になるので、登高はここで終わりだ。ラメッシュはスノーボードで、僕はスキーで、35度の斜面に滑り込む。硬めのざらめ雪が快適だ。カールを左に横切って、ベアス川源流の標高3,450 mまで下った所で雪が切れる。残雪の下から流れ出したばかりの沢の水でスキーを洗う。この水はインダス川に合流し、2,000 kmの旅の果てにアラビア海へ注ぐのだ。

15分歩いて、マリー夏村の下にある橋のあたりで道路に出る。

 

5月9日

グラバ(3,050 m 09:20)〜キャンプ(3,600 m 12:00)

今日から1泊2日で、ブリグ湖の上にある4,200 m峰を滑りに行く。登山口のグラバまでは、マナリから車で1時間である。

メンバーは、僕とガイドの他、コックが1人とポーターが2人だ。ポーターのうち1人は、荷揚げが済んだら山を下りる。風来坊山荘の主人の森田氏も、ハイキングツアーの下見をするために日帰りで同行した。

装備は、大きなテントが2つと、調理用具の入った衣装ケースほどもある箱、30 cm四方ぐらいのコンロが2台、燃料容器、水汲み用のバケツである。これらの装備に僕のザックとスキーも加え、コックとポーターの3人で手分けして運ぶわけだが、どう見ても1人当り40 kg以上になりそうだ。ヒマラヤトレッキングのガイドブックを見て、1日に進む行程が随分短いので不思議に思っていたが、ポーターがこんな重荷を背負うのでは、確かにゆっくりとしか歩けないだろう。僕が担ぐのは、デイパック1つで良い。贅沢な山行である。

ところどころに林が点在する草原を登って行く。サクラソウのような赤い花、ミヤマリンドウ風の小さな青い花、ハクサンイチゲ風の白い花。草原は花盛りである。斜面では羊が草を食んでいる。羊は花の咲かない草だけを好んで食べるので、花畑がきれいに残るらしい。振り返れば、ハヌマンティバ(5,928 m)が優美な姿を見せている。

標高3,600 mまで登り、残雪が現れる手前でキャンプをする。水は雪解けの流水を使う。山を眺めたり昼寝をしたりしてゆったりくつろいでいれば、コックがお茶や料理を運んできてくれる。夕食は、チーズとグリーンピースのカレーに豆のカレー、サラダ、トマトスープ、ライスである。

 

5月10日

キャンプ(08:00)〜キャンプ地の南の谷(3,800 m 09:15)〜ブリグ湖の上の4,200 m峰(11:00 / 11:20)〜キャンプ地の南の谷(11:45)〜キャンプ(12:30 / 13:00)〜グラバ(13:45)

ガイドと2人で1時間ほど夏道をトラバースし、標高3,800 mでキャンプ地の南の谷を渡る。ここからスキーを履いて、傾斜のきつい左岸を登る。尾根上に出れば、広くて緩やかな雪面が4,200 m峰まで続く。

頂上に立つと、インドラサン(6,221 m)とデオティバ(6,001 m)が目に飛び込んでくる。デオティバの頂上からは、山と溪谷社の社長が30年前にスキーで滑っているそうだ。ブリグ湖は4,200 m峰の南の谷の源頭に当たるが、今はまだ雪に覆われている。さらに南の尾根伝いに、風来坊山荘があるバシシトへと下るルートもある。すぐ北には、ケリラジョ(4,701 m)の南西斜面が見える。4,200 m峰の少し下から北へ向かえば、ケリラジョまでスキーで楽に往復できそうだ。

シールをはずして滑降開始。広い斜面に、好きなだけ大きなターンを描く。往路をたどってキャンプに戻れば、コックとポーターが「山はどうだった?」と笑顔で迎えてくれる。「Good ski!」と答えて、彼らと、またガイドとも握手を交わす。ランチの後で、テントをたたんでブリグへ下る。

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