行動記録

7月31日 (成田12:00―モスクワ17:05〜21:25―)

8月1日 (―ビシュケク04:00)

 5時30分にビシュケクのホテルに着き、午前中は寝て過ごす。午後は、ポーターやハイヤーの手配を頼んだDostuck Trekkingの事務所で打合せをし、両替や買い物もする。夕食はホテルのレストランで取るが、中華風の味付けの料理が多くて日本人の口にも合う。

 

8月2日 曇り時々雨 午後一時雷(ビシュケク09:30―アラ・アルチャ登山口12:30―ベースキャンプ18:30)

 Dostuck Trekkingのバスで、ビシュケクからキルギス山脈に向って南に進む。郊外に出ると、牧草地やひまわり畑が地平線まで広がる。まもなくアラ・アルチャ谷に入り、草原の中に森が点在する風景に変わる。アラ・アルチャ登山口の5km手前まで来た所で、道路も含めて谷一面が土石流に埋まっているためバスを降りて歩くことになった。1km歩くと不通区間は終わり、そこでコックが登山口から乗用車を取って来るのを待つ。後は車で何度か往復して、人や荷物を運ぶ。

 登山口からアク・サイ谷右岸の道を進む。客3人とコック1人・通訳1人・ポーター4人の9人パーティである。コックはジェニアという名前で、この夏医科大学を卒業したばかりの若者だ。ときどき、アルバイトでハン・テングリ登山隊のコックなどをしているらしい。通訳はマーシャと言い、彼女は仕事以外でもよくアラ・アルチャ山域へ岩や氷を登りに来ているそうだ。

 森の中を20分ほど歩くと、花畑の道に変わる。リンドウ・キンポウゲ・フウロソウなど、日本の高山植物とそっくりな花が山腹を埋めている。珍しいのは黄色いアザミくらいだろうか。登山口から3時間で、右岸から落ちる滝の下(2,800m)に着き、ここで昼食を取る。中央アジアで広く食べられているという、直径30cmの丸いパンが出てきた。あまり硬くなく、芳ばしい香りもして美味い。

 滝の下から急な坂を3つ越えるとラツェカ小屋に着く。沢のほとりに20人くらい泊まれそうな小屋があり、小屋の横とその300m上流の2ヶ所に、合わせて30個ほどテントが張ってある。我々は、上流側の幕営地に3人用テントを3個張ってベースキャンプにした。テントのうち2つは客用で、1つはジェニアとマーシャが使う。ポーターは、テントを張り終えると山を下りていった。夕食は20時になったが、21時までは明るい。

 ベースキャンプでは、沢の水を料理に使う。沢の傍をトイレにする者もいるので、水は沢の源頭で汲み、沸かして飲む方が良い。上流側の幕営地の所が、ちょうど沢の源頭になっている。本当のトイレは、小屋の裏のモレーンを越えた所にある。

 ベースキャンプにいるのは、ほとんどがキルギスかロシアの人のようだ。クライマーやハイカーが多く、スキーをしに来たのは我々だけである。昼夜を問わず、幕営地のあちこちからギターを弾いて歌う声が聞こえる。だみ声の酔っ払い達が合唱しているのは幻滅だが、女の子が氷河を背にして岩に腰掛け、澄んだ声でキルギスの歌を歌っているのはなかなか絵になる。

 

8月3日 午前中晴れ。午後から夜は曇り一時雨時々雪。1日で3cm積もる。(ベースキャンプ09:40―カローナ小屋13:00―ベースキャンプ15:30)

 高度順応のため、マーシャの案内でカローナ小屋まで往復する。ベースキャンプを出て、アク・サイ氷河のアイスフォール(3,500m〜3,700m)を見ながら右岸のモレーンを登る。足場が崩れて歩きにくい。標高3,760mからは、モレーンを下りて平らな氷河の上を歩く。氷の上に新雪が5cm積もっており、所々に幅50cmのクレバスがある。トレースがあるので、ロープはつけずに進む。氷河の左岸には、高さ800mのスボボドナヤ・コレヤ(4,778m)北壁がそびえている。その北西側の山はテケ・テル(4,480m)とボクス(4,294m)である。テケ・テルは頂上からスキーで滑れそうだ。

 カローナ小屋まで登ってから引き返す。小屋は雨漏りがひどくて泊まる気はしないが、5〜6人でお茶を沸かして休むくらいならできる。小屋のまわりには、いくつかテントが張ってある。アク・サイ氷河の右岸にはモレーンとの境目に水が流れているので、カローナ小屋近くで幕営したときにはその水が使えるだろう。

 

8月4日 曇り時々雪。1日で5cm積もる。(ベースキャンプ滞在)

 

8月5日 晴れ。宵のうち雪一時雷。(ベースキャンプ04:40―カローナ小屋09:00〜09:30―カローナT峰とU峰のコル16:15〜16:30―カローナ小屋17:45〜18:30―ベースキャンプ21:00)

 今日はカローナに登る。4時40分にベースキャンプを出発し、ヘッドランプを点けて一昨日と同じ道をたどる。途中までマーシャとジェニアも同行するので、彼らに島津と森野のスキーを担いでもらう。5時には明るくなってきた。

 標高3,760mでアク・サイ氷河に下りる。昨日降った雪でトレースが消えているので、島津・森野・鈴木はロープをつけて進み、マーシャ達はその後ろを歩く。スキーを履くとクレバスを飛び越えるのに不便なので、つぼ足で進む。ラッセルは脛から膝くらいである。ときどき腿まで雪にもぐるが、足を引き抜いてみるとクレバスが口を開けている。

 9時にカローナ小屋に着く。マーシャとジェニアはここで待機し、登山隊3人はカローナ氷河を登り始める。ルートは終始、氷河の北端に近い所である。取り付きから標高4,100mまでは傾斜40度の急斜面だ。スキーは引っ張るか、あるいは担ぐ。クレバスは見当たらず、今朝カローナ小屋付近のキャンプを出発した先行パーティのトレースもあるので、ロープをつける必要は無い。トレースは地吹雪で埋まりかけており、つぼ足では脛から膝くらいまで雪にもぐる。標高4,200mで傾斜は緩くなり、シールで登れるようになる。左右にはクレバスも現れ始めたが、トレースは明瞭なのでそのままロープ無しで進む。

 標高4,300mで広さ300m四方の平坦地に着く。ここからはカローナ山頂が良く見える。森野のペースは落ち、標高差100mを登るのに1時間30分かかるようになった。時刻はすでに13時である。このペースでは山頂付近まで行く時間は無いが、森野は「体調は悪くなく、もうしばらく登るつもりだ。」と言う。彼が夕方までに登れる限界は標高4,520mのコル辺りだが、そこまでのルートにクレバスは見えないので、単独で行動しても危険は小さいだろう。そこで、島津・鈴木組と森野の2つにパーティを分けることにした。そして、標高4,300mで集合すること、17時までに島津・鈴木組が集合場所に帰って来なければ森野が1人でカローナ小屋へ下りて事故の発生を伝えること、森野は体調が悪くなったら1人でカローナ小屋へ下っても良いことの3つを決めて、行動を再開する。

 平坦地が終わると傾斜35度の急斜面になるが、雪が柔らかいのでシール登高を続ける。鈴木のペースが落ちてきた。彼が標高4,520mのコルに着いたのは15時である。鈴木も体調は良くて登る意欲もあるそうだが、山頂付近まで行くにはやはり時間切れだ。「ロープが必要なクレバスが出てきたら、その手前で待っているから。」と言い残して、島津1人で先を急ぐことにした。

 緩やかな斜面を登る。右の方にはときどきクレバスが見え、ルート上にも幅30cmのクレバスが1つあったが、トレースをたどる間はロープで確保する必要は無いだろう。振り返ると、鈴木も森野も別れた場所から動いていない。結局、休んで待つことにしたようだ。

 16時にカローナT峰西壁の下(4,690m)に着く。スキーをロープで引っ張りながら、つぼ足で傾斜35度のガリーを詰める。最後の10mはアイゼンをつけて登り、16時15分にT峰とU峰のコルに着く。山頂には岩登りをしないと辿り着けないので、コルが今日の終点である。コルの東のジンディ・スー谷側は絶壁になっており、谷をはさんで4,840m峰が見える。西の方には、アク・サイ氷河とスボボドナヤ・コレヤ峰の向こうに、キルギス山脈が延々と連なっている。

 16時30分に滑降開始。凍ったガリーをそろそろと10m下りると、雪が柔らかくなったので速度を上げる。1ターン目は良かったが、2ターン目でモナカ雪にスキーを引っ掛けて転び、頭から1回転する。転落コースが3m右にそれていたら、岩にぶつかるところだった。途中で鈴木や森野と合流しながら、カローナ氷河を滑り降りる。どこまで下りてもモナカ雪が続く。鈴木は見事なテレマークターンを決めているが、島津と森野はひたすら斜滑降とキックターンで高度を下げる。

 17時45分にカローナ小屋に着く。ジェニアが用意してくれた甘い紅茶を4〜5杯飲み、チョコレートビスケットも頬張って、ようやく一息つく。アク・サイ氷河とモレーンを下るうち、夕闇が迫り、雪も降り始めた。ベースキャンプに着いたのは21時である。

 

8月6日 午前中晴れ。午後から夜は曇り時々雪。1日で3cm積もる。(ベースキャンプ滞在)

8月7日 午前中晴れ。午後から夜は曇り時々雪。1日で3cm積もる。(ベースキャンプ滞在)

 8月7日はセメノバ・ティアンシャンスコゴ(4,895m)を滑りに行く予定だったが、カローナ以上に時間がかかりそうだし、一昨日の疲れも残っているので中止する。鈴木はウチテル氷河の標高3,800mまでハイキングに行き、残りの2人はベースキャンプでゆったり過ごす。

 

8月8日 晴れ(ベースキャンプ12:30―アラ・アルチャ登山口15:30―ビシュケク17:30)

 下山用のポーターが11時にはベースキャンプにやってきた。テントをたたみ、往路をたどって登山口へ下る。登山口からビシュケクまでの道路のうち、不通だった区間には仮設道路ができていた。しかし、道が悪くて川の中を渡る所もあるので、迎えに来たのはカマズ社製のトラックである。車輪が6個もあってどこでも走れそうだが、乗り心地は非常に悪い。

 

8月9日 (ビシュケク05:15―モスクワ07:35〜19:10―)

8月10日 (−成田09:40)

キルギス カローナ