幻想へと誘う 梅雨のホタル

下京区・田中 正一
        (公務員・36)


 六月に入っていよいよ
梅雨の季節。もちろん田
畑にとっては大切な雨で
はあるけれど、蒸し暑く
ってうっとうしい。そん
な中、この時季しか見ら
れないすてきな光景があ
る。それは、「ホタルの
明かり」。
 昼間の気温がどんどん
上がっても、夕方はぐっ
と涼しくなるこの時季、
川辺はなんともいえない
風が吹く。日が落ちて暗
闇に包まれだすと、どこ
となく心を和ませる小さ
な「明かり」がぽつりぽ
つりとともりだす。
 子供の頃は「ほう、
ほう、ほたるこい」と歌
いながら川に入って、蛇
穴が光るのと間違わない
ようにとビクビクしなが
ら、点滅する「明かり」
を追った。
 大人になってからは毎
年「明かり」を求めて川
辺にたたずんでいる。忙
しく働く現実の世界か
ら幻想の世界へと誘っ
てくれる気がする。
 こんな都会の京都市内
でもいろんな方の努力も
あって、今でもあちこち
でホタルを楽しむことが
出来る。水辺のにおいと
風、点滅しながら飛び交
う姿、迷った「明かり」
が人の衣服にとまった
り点滅の速度を楽しん
だり…。雨上がりの「明
かり」は澄んで、いてこ
のうえもなく美しい。こ
の光景は写真やビデオで
はどうやっても伝わらな
い。今年もこんな癒やし
となる「明かり」を求め
て、日の暮れに川辺へい
きたい。





京都新聞(06.6.6
7面「窓」欄掲載)


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