「千日詣り」で
   貴重な経験を
 

  公務員 田中 正一 

(京都市下京区 37歳)

 京都・嵐山の奥に標高9
24bの愛宕山がある。7
月31日夜から8月1日早朝
にかけて山頂の愛宕神社に
参ると千日分の防火の御利
益があるといわれている。

 京都に生まれながら一度
も登ったことがないので、
今年こそこの「千日詣り」
に行こうと早くから決めて
いた。お年寄りや子どもた
ちが登るので、日頃歩くこ
とを心がけている私には大
したことはなかろうと、高
をくくって登り始めた。

 ところが、山頂までの約
4`の道の長いこと、長い
こと。すれ違
う人が「おの
ぼりやーす」
と励ましの声
をかけてくれ
るが、これに
は「おくだり
やーす」と返すのが習わし
という。

 初めは照れくさい気持ち
で返していたが、次第に息
が切れて声が出ない。神社
に参ってお神酒をいただい
てから下山するが、日頃の
運動不足と体力のなさを思
い知る結果になった。

 それにしても2時間かけ
て登り切った喜びや、途中
の夜景の素晴らしさを実感
した。そして何より、お年
寄りを気遣う若者の姿や京
都弁での声掛けなどを見聞
きして、人と接することが
疎くなった都会で、大切な
ものを忘れている者にとっ
て貴重な経験となった。



朝日新聞(06.8.10)
大阪本社版26面
「声」欄掲載)


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