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観光振興と京都の活力創造(03.8)
 自由時間の増加に伴い、モノの豊かさからゆとりと潤いを求める精神的豊かさが求められていく中で、観光に対する関心がますます高まっている。グローバル化が進展し、急速な経済発展は、世界の観光客の爆発的な増加をもたらし、観光は、今後の世界経済を牽引する基幹産業になることが容易に想像できる。このような中、昨年12月、国土交通省が関係府省と協力してグローバル観光戦略を策定した。2001年の日本人の海外への旅行者が1622万人なのに対して、海外からの訪日旅行者が477万人程度とかなりの格差があるため是正しようと言うものだ。ビジット・ジャパン・キャンペーン等施策を講じ2010年までに訪日外国人旅行者を1000万人にするという目標だ。これにより新たに約4兆3千億円の経済波及効果と約25万2千人の雇用創出を生み出すことになるという。国際文化観光都市である京都市は、2001年に京都市基本計画を策定し、その中で国内旅行を含む年間入洛観光客数が3500万人から4000万人の現状を2010年に年間5000万人の観光客が訪れる我が国を代表する観光都市にする計画を立てた。これらの計画を推進することにより「観光」を都市活力創造の基軸と位置づけ、観光と産業・文化・まちづくり・国際交流などが相互に良好な循環をすることによって、都市全体が活性化する政策を確立すべきである。

新しい観光の創出
京都は一年を通じてにぎわいのある観光地の創出を図るために、季節に影響されることなく集客できる新しい観光の魅力を創出する時期にきている。閑散期に日本情緒あふれる灯りによりまちなみを照らしたりすることも一つの方法である。平安建都以来の歴史と伝統によって築かれた京都は都市全域を歴史の博物館、「フィールド・ミュージアム」とみなすことができる。このことを活用していくことで通年型観光の推進につなげられる。1994年の平安建都1200年、昨年のW杯の時は観光客数が延びた、今年は二条城築城400年を迎えるがこういったイベントや周辺地域との連携も忘れてはならない。修学旅行に代表されるのも京都で、年間100万人程度の修学旅行生が訪れているが、将来何度も訪れたいと思う観光リピーターの原点となることから宣伝誘致活動を積極的に行う必要がある。この何度も京都を訪問したいと思う観光リピーターを増やす観光戦略は重要である。駆け足で廻る観光だけではなく懐の深い魅力ある観光資源をじっくり体感できるエリアを創出し多様なニーズに応える観光地づくりを進めていくことや歴史と伝統に育まれた文化や産業に触れる滞在型、体験型観光を振興していくことで観光リピーターを増やしていくことができるであろう。また、何もしなくても京都に観光客が来る時代は終焉を迎え、観光客の誘致は国内だけではなく地球規模での大競争時代に突入している今、徹底的な分析により「都市」という「商品」を開発し、シティーセールスなどによって「顧客」を獲得し地域間の競争に勝つという『都市マーケティング』を強化していかなければならない。インターネットをはじめとするITの急速な発展により情報革命をもたらしていることは観光分野においても大きな転換期である。ホームページの充実による情報の受発信はもちろんのこと、携帯情報端末としての携帯電話の普及により周辺観光情報やバスの接近情報なども活用できるようになった。これらを連動させた観光案内システムを構築することは急務である。これらの政策とともに、京都を訪れた観光客に「再び京都を訪れたい」という気持ちを抱かせるような「受け入れ環境」を充実させることが必要ではないだろうか。市民ひとりひとりがもてなしの心に磨きをかけて来訪者と交流するしくみづくりや観光案内等で活躍するボランティアをはじめとする市民、事業者、社寺、文化施設、大学等を含めた観光振興のためのネットワークづくりなどを進めていくということである。市民参加型で京都観光の振興発展を進めるための組織である「おこしやす京都委員会」などが、実行力のある活動ができる環境をつくっていかなければならない。

伝統を継承する意識
京都に訪れた他府県の人がちょっと不思議に感じることがある。何気なく見過ごしてしまいがちだが、全国で意匠の統一をしているチェーン店の看板が普通とは違うのである。広告の地の部分全面に赤や黄色を使用すると派手なイメージになるので、広告の地の色と文字の部分の色を反転させたデザインや地の赤色を茶色にかえて掲出しているのである。京都市では屋外広告物等に関する条例の中で「意匠がけばけばしい色彩又は過剰な装飾でないこと」が必要とされる地域がある。そのため広告主等の工夫で、まちなみと調和のとれたいわゆる「京都仕様」の看板が生まれた。これはごく一例で、高さ制限や意匠形態等の基準や、建築物の新築や模様替え、自動販売機などの工作物や軒先テントなどの工作物にも承認申請や制限事項がある。古都保存法をはじめ様々な条例などによって、景観や伝統が守られるとともに、将来の世代に継承していくため規制されるのである。1956年日本ではじめて制定された市民憲章にも「わたくしたち京都市民は、国際文化観光都市の市民である誇をもって(中略)1、わたくしたち京都市民は、旅行者をあたたかくむかえましょう」とある。そういった気持ちが身にしみて感じられるのが、お盆に行われる「大文字の送り火」のときだ。市内のネオンサインが一斉に消され、送り火を昔ながらの光景で見ることができる。京都市民の景観を保全しようとする努力の表れの一つと評価したい。しかしながら、京都に生まれ育ったいわゆる京都人の中に、京都の本当の良さをわからないケースもある、「観光地には行こうと思えばいつでも行ける」との思いから史跡などを訪ねたことがない人が意外に多い。いざ出張などで遠くへ行ったとき逆に京都の魅力を教えてもらうという不思議なことがあるのだ。市民ひとりひとりが他都市へ行ったときに観光ミッション的なキャンペーンやプロモーション、親善大使になるくらいの潜在的な意識を絶えず持つことが京都人には求められるのではないか。景観の維持保全は、ある程度は誇りと義務感で支えることができるとしても、かなりの経費を必要とするのも事実である。補助金の制度はあるにしても、そこに暮らす人たちの景観保全の意識と努力は計りしれないものがある。心から敬意を払いたい。

観光都市に生きる
観光を都市活性化の中心に据えるとき、市民生活の向上についても多々考えておかなければならない。例えば、はげしい交通渋滞である。京都市の観光調査年報によると2001年の観光客数は4132万2千人。京都の公共交通機関は市バスが中心で地下鉄は南北に1本東西に1本あるだけで、私鉄も郊外や大阪方面に伸びているものの、東京や大阪のように縦横無尽には走っていない。こういった中で観光客の30.6%、1263万4千人が乗用車で入洛している。春の桜のシーズンと秋の紅葉のシーズンに集中するから、京都市民、特に観光地周辺に住む者にとって、この交通渋滞は苦痛でしかない、職場から家に帰りたくても普通に帰れないことすらシーズン中には日常茶飯事である。そこで昨秋、嵐山地区において交通社会実験として「パーク&ライド」―交通の混雑する地区の周辺で,駐車場に車を停め,公共交通機関に乗り換えるシステム−を実施した。その結果は2日間で1013台、日曜には651台、距離にして約4kmの乗用車の流入を抑制できた。利用者のほとんど95.4%からも好評だった。同時に「トランジットモール」―通りを一般の車両通行を抑制した歩行者専用の空間とし,バス等の公共交通 機関だけが通行できるようにした街路―も実施し、歩行者の安全性・快適性や移動性の向上が図られた。この交通社会実験結果は、観光の振興と京都市民の快適な日常生活の確保を両立できる一つの有効な手段を見いだす上で評価できるものである。こういった試みを十分に生かしながら交通需要管理施策(TDM施策)を推進し、さらには軽量軌道公共交通機関(LRT)などの新しい公共交通のあり方も研究すべきである。ここでは交通渋滞を例にあげたが、様々な産業が互いにきめ細かく支え合う「産業連関都市」をめざしたり、大学の集積・交流で新たな活力を生み出したりするなど京都再生に向けた多様な動きを活発化させることは将来の市民生活にとって有意義なものである。

歴史都市と都市活力
現在の京都市は147万人の市民が暮らしていて、最先端をいく大企業と伝統的な産業が共存する大都市機能を持つとともに日本文化のふるさとであり固有のまちなみ景観や自然歴史的な風土を併せ持っている。京都は観光都市であるとともに歴史都市である。歴史都市というのは、永遠に成長しつづける都市であり、1200年の長きにわたって同じ空間において大都市でありつづけため、我が国を代表する、また世界的にも注目するに値する歴史都市になったのである。観光客にとって「訪ねてよし」のまちは、京都市民にとっても「住んでよし」のまちにする必要がある。いま「保全・再生・創造」の3つの大きな概念のもとに、まちづくりが進められているのも“歴史都市だからこそ”である。

自民党の政務調査会が「観光立国日本を目指して」を、政府も「観光立国行動計画」をまとめたところであるが、観光振興を推進する政策によって、観光施設は言うに及ばず、宿泊施設、交通機関、飲食業や商店街、製造業に至るまで、非常に裾野の広い経済波及効果をもたらすとともに都市活力の創造に結びつく。そして旅行を通じ、家族との語らい、自己啓発、それが生きがいそのものとなり家族の絆が再構築されるとともに個人の活力が再生される。受け入れ側の心の満足感の醸成により、癒しの心が浸透することにもなる。また観光を媒体に国際交流の活性化にもつながるといった多くの利点がある。これらのことを充分にふまえ、観光に関する所要の振興立法策定に取り組むときがきている。

(※)入洛:京都に入ること
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