プロの目が最高の一杯を作る

 カクテルの基本を守って作ってみても、まだプロの方がおいしいでしょう。それは飲む人に対する心遣いが格段に違うからです。プロのバーテンダーは、飲む人の表情から味の決め手を読み取っているのです。

 星の数ほどあるカクテルも、実際にお店でオーダーされる種類はある程度決まっています。たとえば若い女性から熟年のカクテル通まで幅広く愛されるサイド・カー・カクテル。しかし、プロが作るものは誰かれに出すのも同一ではありません。人にはそれぞれ体質の差があり、酔い方も違います。「相手に合わせて少しずつ材料の分量を変えて作る」のがプロ。さらにひとりの客に対しても「酔いの状態や体の調子を見ながら、作るたびに味を変える」ことも考えます。

 これらはいつも向かい合わせで表情を読み、観察しているからこそできることで、シェーカーを振るむずかしさとは違った資質が要求されます。

 初めてカクテルを口にする人にならば、会話の中から相手に合ったものを見つけ出します。酒量のわからない人に、家族の傾向をたずねて推し量る。女性の身につけた服装や宝飾品の色にあわせた見た目にもきれいな一杯を作る工夫をすることもあります。作るほうも飲むほうも、2万種類とそのバリエーションから、その一瞬にぴったりのお酒を発見し、そのときの気分に重ねて味わう。これぞカクテルの醍醐味といえるのではないでしょうか。