神戸新聞 明石のページ 1975年(昭和50年)9月24日(水)

これは珍しい−
食虫植物とハッチョウトンボ
−−大久保東団地のため池
群れなし湿地に生息
市教委 教材として保存へ

 造成が進む明石市大久保町の大久保東団地内のため池にモウセンゴケなどの食虫植物と珍しいハッチョウトンボの生息していることがこのほど明石市教委の調査でわかった。市教委では小、中学校の学習教材として利用する予定で、周辺の造成工事を進めている日本住宅公団に対し生息地保存に協力するよう申し入れた。

 この池は市立高丘中学の南側にある通称・主池(面積 23,714平方メートル)。ことし7月ごろ、明石市下水道部の職員が団地建設工事の時、この池の北側にモウセンゴケなどの食虫植物が群生しているのを偶然見つけ、市教委に連絡してきた。このため雲井宏善教育次長ら専門家数人がこの池を調査。モウセンゴケ、イシモチ草、ミミカキグサ、タヌキモといった食虫植物が群生しているほか、トンボの中で最も小さいハッチョウトンボも生息していることがわかった。
 モウセンゴケは高さ15センチぐらい。直径5,6センチの円形の葉から粘液を出し、これで飛来するコン虫を捕食するという食虫植物。またミミカキグサ、タヌキモ、イシモチ草なども同じ食虫植物で、いずれもじめじめした湿地帯にはえる。一方、ハッチョウトンボは体長2センチ足らずの日本で最も小さいトンボ。やはり湿地帯に群をつくって生息する。
 主池の場合、北側に松の植わった斜面があり、この斜面の地下を流れる地下水がちょうど池の水際あたりにわき出している。日光がよく当たるにもかかわらず、つねにじめじめしており、食虫植物やハッチョウトンボにもってこいの環境。
 これらはかっては播州各地にごく普通に見られたが、宅地造成や農薬の使用などで激減。明石市内ではコン虫研究家の平尾栄治さん(26)=明石市藤が丘2−2−14=が大久保町松陰新田で生息地を発見したのが報告されているほかは見つかっていない。主池で発見されたあと、市教委が東団地周辺を調査したが、見つからなかった。
 このため、市教委では学校教材として保存することに決め、周辺を造成している公団に協力を申し入れた。公団では池の北側斜面が造成の影響で崩れる危険があるため、斜面の下にコンクリートの防護壁をつくる計画だったが、市教委が地下水をしゃ断するほどの大規模な防護壁をつくると生息地が破壊されるため善処を要望。また工事中、土砂などを流して周囲の環境を破壊しないことも訴え、公団側も協力を約束、保存されることが決まった。しかし、すでに、マニアなどが盗みに来ているため市教委は監視を強める一方「せっかくの貴重な生息地を荒らさないでほしい」と呼びかけている。
 平尾栄治さんの話 保存されるのはけっこうな話だ。しかし、環境保存は水脈を保存するというだけでは不十分だ。食虫植物は酸性の水を好むため、下水などが流れ込んで水質が変わるとダメになる。かって西宮市が甲山で保存しようとしたが、周辺の造成のため水質が変わり失敗したケースもあり、保存には慎重にしてほしい。