第一話 葛の花

葛咲くや 谷深ければ 蔓伸ばし
                       考 堂

平成十一年 秋 最高裁で有罪判決が確定した 衆議院議員 藤波孝生 はかって未来の宰相とも言われ、中曽根内閣で官房長官の任にありましたが リクルート事件に連座し、その政治生命を終えました。
「孝堂」の俳号を持つ孝生は、リクルート事件は 「天与の試練」 ととらえ、“くず”の花が深い谷底から“つる”を伸ばして這い上がる様を自らの姿と重ね、逆境においていかなる高きハードルを課せられても乗り越えようとする強い意志を示しました。

人はその頂点にある時、何物をも恐れず、謙虚な志を失うといいます。
そしてその時、既に司直の猜疑の目が向けられていることに気付きません。

戦国の覇者 家康は 信長より 武田通謀の嫌疑を受け、自刃を余儀なくされた長男 信康に対し、「何故もう少し注意深く生きなかったのか」 と無念の涙を流したといいます。
信玄、謙信、信長、秀吉 これら乱世の梟雄とは比すべきもありませんが、昨今の政界人士の人材不足、質の低下を憂う時、ロッッキードよりバブルにいたる 戦後日本の負の遺産が残した爪痕の深さはまことに慙愧にたえません。

         
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