<緊急報告・荒れる中学>【その1】消えた校長と教頭----無法地帯へ「自壊」

3月26日14時24分配信 毎日新聞

 
 コーラにラムネ菓子を落とすと、ペットボトルから激しくコーラが噴き出した。2月下旬、福岡
<緊急報告・荒れる中学>【その1】消えた校長と教頭----無法地帯へ「自壊」
卒業式後、取材リポーターのマイクを奪い、歌いだす生徒=福岡県田川郡内で08年3月14日午前11時、林田雅浩写す
県田川郡内の町立中学校。一部生徒の笑い声が響く教室で、他の生徒たちは何事もなかったように、静かに教科書に目を落としていた。教室内の教師は、ふざける生徒の姿は見えないかのように授業を続けた。

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 この学校では、昨年から一部生徒の授業妨害が続き、昨秋以降、校長と教頭が心労で体調を崩した。2人は教育現場を離れ、3月に後任の校長が赴任するまで、学校は1週間にわたって管理職がいない状態になった。

 妨害したグループは8人。うち1人は約1年前から、昨秋からは全員が、「個別指導」(町教委)として、学校内の美術準備室に「隔離」された形になっていた。だが、準備室に常駐する教師はいなかった。生徒たちはテレビゲームやポットを持ち込み、たむろしては飲み食いした。様子を見た保護者の1人は「まるで無法地帯だった」と振り返る。

 荒れ始めたきっかけはよく分からない。町教委によると、グループは昨年7月、他の中学校の生徒とのけんかで2人が逮捕・補導された。復帰した2学期から授業妨害が激しくなり、1人が髪を金色に染めると仲間が倣った。

 試験中にラジカセを大音量で鳴らす▽2階から椅子を放り投げる▽校舎入り口にバリケード状に椅子を積み上げる▽職員室内を集団でうろつく……。生徒に注意し、暴言を吐かれた女性教師は体調を崩し学校を休んだ。

 「おれらが悪いん?」。トサカ状の髪を金色に染めたグループの1人は何を聞いても「知らねー」と繰り返し、記者をにらみつけた。「初めから見た目でおれらを判断したのは先生やん」。別の1人も、とがった声で吐き捨てるように言う。「先生は注意せん。放し飼いやん。言うこととやることが違う。汚い」

 激しい授業妨害と奇抜な外見。周辺からはまた違う見方も漏れてくる。同級生はグループの1人を「年下の面倒もみるし、優しい」。ある商店主も「一人一人はいい子」と語る。保護者の1人は「他の生徒には危害を加えていないし、あくまでも先生との問題」と、通常のいじめなどとは異なる非行という見方を示した。

 1枚の写真がある。グループの生徒5、6人が大人たちと写った写真だ。昨年12月、警察官や補導員らでつくる「ストップ非行防止プロジェクト」の関係者が呼びかけ、近くの山まで片道1時間のハイキングに出かけた。

 「頑張ってくださいよ」。ジャージー姿の生徒たちは、へばり気味の大人たちにそう声をかけ、黙々と山を登ったという。山頂での記念写真に、学校で見せる険しさはなく、照れたような笑顔が浮かんでいた。

  ◇   ◇

 「学校は結局、彼らの問題を抱え込んだまま、自ら壊れていったような感じがする」。関係者は振り返る。校長室で暴れた容疑で、14日の卒業式直後に、生徒2人が逮捕されて1週間。なぜ2人の管理職が倒れるに至ったのか。小さな町の中学校で起きた“自壊”の現場を報告する。(その2に続く)