つばき教育研究所

 

紹介にあたって
 
 つばき教育研究所は、埼玉県草加市にあります。
その指導形態は基本的には通所指導で、職員との1対1指導です。
しかし、保護者の強い希望もあって、ここ福岡県では、母親が子どもを指導すると
いう体制で、つばき教育研究所の指導が行われています。
 毎週、家庭での指導の様子のビデオを取り寄せ、それを見ながら、母親に対し
て指導方法、教材作成などの指導が行われています。
 また、年に数回、研究所の職員が現地に赴いて直接指導を行ったり、研究所に
親子で出向いて指導を受けたりしています。
 しゃぼん玉の会に参加している一部のご家族が指導を受けられており、成果が
上がっているため、ここに紹介させていただきました。
 以下は、つばき教育研究所の資料からの抜粋です。 
                                           (白木) 

 

                 はじめに

   
当つばき教育研究所は、1982年に、次のような主旨及び目的で設立
  されました。

 〈つばき教育研究所、設立の主旨〉

   人の子として生まれたなら、その人がどんな状態であろうとも、一人の人間と

  して、その存在は尊重されなければならない。
 
   人の成長とは、より人らしくなるということであり、より人らしくなるという人間

  の本質は、より豊かに考えるということにある。人が考えるということは、単に

  何かについて考えるということだけでなく、人の毎日の活動、広くいえば、時聞

  的経過をも含めて人間の活動そのものであり、人間の行動全てを包含している

  といえる。

     行動とは、外界の刺激に対して運動を自発することであり、その始まりは感覚

  の受容と反応にある。受容と反応を豊かにし、自発の運動、つまり行動をより豊

  かにすることを通して、より深く考えられるようになることが人の成長である。
 
   さまざまな障害をもっていても、どんなに小さな存在であっても、その人はその

  人らしく刺激を受容し反応している。その受容や反応の様相がより豊かになり

  高まっていくような適切な働きかけがあれば、いかなる障害があってもより人ら

  しく成長していくであろう。

   当研究所では、障害をもった子ども達のそうした成長を願って、障害児教育の

  実践・研究を行うものとする。

 〈目的〉

   ○障害をもった子ども達に対して適切な働きかけを行うことにより、成長

    を促す。

   ○親を含めた周囲の人びとに対して、啓蒙及び相談の活動を行う。

   ○障害児教育を含め、広く教育に携わる人々とともに指導内容・指導方

    法・教材教具について実践・研究をする。

   ○障害児教育はもちろん、教育全般にわたって実践・研究を行い、より

    系統的・論理的な学習理論を追究する。

 

   当つばき教育研究所で、通所指導を受けている子どもは3才から

  28才までの年令で、80名近くにのぼっています。通所指導を受けている

  子どもの障害は、視覚障害、聴覚障害、運動機能障害、精神発達遅滞、

  言語障害、その他、多動、寡動、情緒障害、自閉症、学習障害等、障害と

  程度は様々で、その多くは、重複して障害をもっている子どもたちです。

   通所指導は、週1回60分で、1対1の指導を行っています。指導には、

  当研究所の研究員(職員)と、普通学校の教員、障害児学校の教員、障

  害児関係の施設の職員等数名であたってきました。

   学習内容は、子どもの発達段階にあわせ、実態に応じて検討し、指導して

  います。発達段階が、2〜3ケ月程度であれば、おもちゃにさわる、持つ、

  なでる、はなす等の学習から、見る、見た物に手を出す、よく見る(注視)、

  動いている物を目で追う(追視)、見比べる等の学習、そして、方向、順序、

  形の弁別学習から、文字や数の学習まで、幅広く学習しています。子どもが

  今、何ができて、何ができるようになることが、より人間らしくなるのか、

  そして、親の願いが少しでも実現できるように、学習内容を充分吟味し、指

  導を行ってきました。その結果、かなりの成果をあげることができました。

  しかし、まだまだわからない事だらけです。今後も、努力を積み重ねていか

  なければならないと考えています。

    今までの学習内容の概要は次の通りです。

  1. 初期学習

    人間の初期行動において、外界の刺激を受容するために最も重要な働

   きをしている感覚は、触覚、視覚、聴覚である。とりわけ触感覚と視感

   覚の向上を図ることは、未発達な状態にとどまっていればいるほど、よ

   り人間らしい行動を自発の運動として引き起こすために大変重要なこと

   である。触る、握る、はなす学習を通して触感覚の向上を図り、物に手

   を伸ばしてつかむことを通して触運動をコントロールし、触空間を形成

   していくことが最も重要なことである。それと同時に、見る、よく見る、

   注視することを通して視感覚の向上を図り、追視する、見比べるとを

   通して視運動をコントロールし、視空間を形成していくことが次の課題

   となる。そして、見たものに触る、見たものに手を伸ばして握る、決め

   られた場所にはなす、などの学習を通して手と手の協応動作、目と手の

   協応動作への学習へと発展していく。

    課題解決学習の準備として、このように目と手を充分に使いこなす

   ことができるような内容が初期学習である。つまり人間行動を形づくる

   ための自発の運動としての初期行動の学習である。

  2. 基礎学習

    触空間と視空間を形成し、より広く深く外界を認知し、より豊かに外

   界に働きかけることができるようになるために、次の様な学習を行う。

   (1)  「はい」  「いいえ」 のサインの確立

       ・ 音声言語によるものだけでなく、首を振る、手振りサインなど

        でも良いし、目を動かすというものだけでも良い。

   (2)  延滞

   (3)  形の弁別

   (4)  同じの概念形成

   (5)  未測量の理解

        ・ 大小

        ・ 長短

        ・ 多少

        ・ 大中小、長中短

   (6)  空間概念の形成

        ・ 方向

        ・ 順序

        ・ 上下

        ・ 左右

     人間行動をより高次化するための、このような内容を・基礎学習とし

    て位置づけている。

  3. 記号操作の学習

    基礎学習が終了すると、記号操作の学習に進む。

    ・ 文字の学習

        単語構成

        文の構成

        文の読解

    ・ 数の学習

        1対1対応

        5までの合成分解

        10までの合成分解

        くり上がり、くり下がり

     この他に、全ての段階を通して、人間関係を豊かにすること、言語の発

    達についても、指導を行っている。また、移動、姿勢、歩行に関する学習

    及び食事、排泄、衣服の着脱等、身辺自立に関する学習にも、充分留意し

    て指導しなければならないと考えている。

 

   子どもは学習が好きです。大変難しい事ですが、スモールステップを組んで

  わかるように指導することができれば、子どもは、知る喜びを体いっぱい表情

  豊かに表現します。学習場面では、決して子どもを叱らないことが、指導する

  側の基本的姿勢と考えています。学習意欲を高め、心理的安定を図るために、

  原則として、否定的な言葉は用いないことにしています。学習が成立しない時

  は、子どものせいにするのではなく、呈示の方法や、ことばかけのタイミング、

  教材や課題が、妥当であるかどうか充分に検討するということを大切にしてい

  ます。泣いている子どもを、泣いてばかりいると思うのではなく、泣くことができる

  という考え方で、どんな小さな変化や反応も見逃がさないで、学習を行い、その

  成長を親とともに喜びあえるようになれば良いと、思っています。
 
   何もできないように見える子どもでも、その存在は等しいのです。必ず成長す

  るということを確信して、より人聞らしくなるために、理解カを向上させるために、

  実践的研究を進めながら、学習を行っています。

   そのために、科学的で、論理的で、より普遍的な学習理論と、心理学的考察

  を加えた、系統的な指導方法と、実態に応じた、創意工夫された教材が重要な

  のです。今後とも、より良い学習理論と指導方法を追究していくために努力して

  いくつもりです。

   課題ができたかどうかも大切ですが、それよりも、課題を解決するために子ど

  もがどのように工夫したかという経過が、もっと大切です。教材は、課題を達成

  するためにだけあるのではなく、子どもと意志疎通を図るためにあるのです。

  課題ができた時よりも、できなかった時の方が、指導者に対して子どもはたくさ

  ん働きかけているのです。特に、音声言語を持たない子どもほど、たくさん話し

  かけているのです。教材を仲だちとして、子どもと会話する心を大切にして、これ

  からも一層、努力していきたいと、考えております。

 

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