飴村 行 01


粘膜人間


2010/01/05

 日本ホラー小説大賞といえば、公募の新人賞の中でも選考の厳しさで知られる。現在までの15回中、大賞受賞作が出たのは7回のみ。佳作さえ出なかった回もある。

 本作『粘膜人間』は、第15回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作を書き直して刊行に至った。「大賞」ではない点にご留意願いたい。大賞は真藤順丈さんの『庵堂三兄弟の聖職』という作品が受賞しているが、本作が大賞を逃した理由とは…。

 林真理子氏(なぜ選考委員に?)は、選評で「まるで悪夢のような拷問シーンが実に不愉快で、作者はかなり危険なところに近づいている気がする。パソコンを打ちながら、このシーンに酔っているのではないか」と述べている。直木賞選考委員としての林真理子氏にカチンときたことは多々あるが、本作に関しては同意せざるを得ない。

 14歳の少女に対するこのような拷問シーンを、表現の自由の名の下に流通させていいのだろうか…。残虐なシーンがある作品も色々読んだが、少なくとも何かしらの必然性があったように思う。本作第弐章の拷問シーンに、必然性があるだろうか。『粘膜蜥蜴』はまだブラックジョークと割り切ることができたが、本作は簡単には割り切れない。

 第弐章を除けば、やっていることは『粘膜蜥蜴』と一緒。ひたすらグロ、ひたすらスプラッター。巨漢の弟の暴力に怯え、河童に殺害を依頼するという第壱章。河童のモモ太のキャラクターはどことなく憎めない。そして顛末を描いた第参章。キチタロウの姿を思わず想像し…何だよこの終わり方。苦笑いで済ませられたよなあ。第弐章さえなければ。

 こういう作品を書く作家には猟奇的嗜好があるに違いない、などとかつてのホラー・バッシングのように短絡的に結論付けるつもりはないが、少なくとも拷問シーンはぶっ飛んでなきゃ書けないだろうなあ。一般読者には一切薦められないが、怖いもの見たさで次回作に手を出してしまいそうな自分自身がちょっと怖い。

 荒俣宏氏の選評って、ある意味飴村行作品の全面否定ではないか?

「ただ、『糞』など乱暴な言葉を無意味に連発する文章は良くない」



飴村行著作リストに戻る