飴村 行 03


粘膜兄弟


2010/06/09

 前作『粘膜蜥蜴』は、何と第63回日本推理作家協会賞を受賞。絶好調(?)な飴村行さんから、粘膜シリーズ第3弾が届けられた。不肖私も買いましたとも、ええ。

 双子の兄弟、須川磨太吉と矢太吉は、ろくに働きもせず暮らしていた。2人が生計を立てていけるのは、貴重なフグリ豚とそれを世話するヘモやんのおかげ。ヘモやんの嗜好は、飴村作品においては軽いジャブ。そんな2人は、駅前のカフェーで働くゆず子に惚れ込み、足繁く通っているのだが、なかなか相手にしてもらえない。

 過去2作と比較して、グロ描写は少ない(あくまで、飴村作品としてはだが)。そうした描写にのみ頼っていては、早晩行き詰まるだろう。では、本作の売りは何か。意外なことに、ストーリー性が高い。ストーリーがあることが意外に思える作家というのも珍しい。

 磨太吉と矢太吉は、度々困難に直面する。何とか切り抜けるのだが、いつも痛い目に遭うのは矢太吉の方。しかも、時々「黒助」が現れては滅多打ちにされる。『となりのトトロ』に出てきた「まっくろくろすけ」のようなかわいい存在ではないとだけ言っておく。

 過去作品と共通のキーワードから、作品世界が繋がっていることがうかがえる。『粘膜蜥蜴』に出てきた東南アジアのナムールに、2人は送り込まれる。前作と違い、謎の生物よりも軍隊という組織の理不尽さを重点的に描いている。しかし、印象はやっぱり滑稽。戦争作家の古処誠二さんは、ここまで戦争を滑稽に描くことをどう感じるだろう。

 ヤクザ、上官、抗日ゲリラなど、兄弟の敵に当たるキャラクターは次々と登場するが、いずれもせいぜい中ボス程度。だから2人は切り抜けられたわけだが。ボスキャラらしいボスキャラが出てこないので、ますます滑稽に感じる。どこまでも兄弟を追ってくる彼の根性が涙ぐましい。とはいえ、拷問シーンは十分きついが…。

 ストーリー性がある分、インパクトは弱かった気がしないでもない。磨太吉と矢太吉に最後に待ち受ける結末は、ちょっと見え見えだった。「ソノウチ分カル」ってこういうことか。ううむ、よくわからん。でも、吉太郎神社のお守りは欲しいかも。



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