蒼井上鷹 03


二枚舌は極楽へ行く


2007/06/28

 デビュー短編集『九杯目には早すぎる』に続く、双葉ノベルスからの2作目の短編集である。ブラックユーモアを集めた『九杯目には早すぎる』と比較すると、今回はシリアスな作品が多い。でも、ブラックユーモアもちゃんと収録されてまっせ。

 まず短編6編。「野菜ジュースにソースを二滴」ってうまいのか? 一見単純なシチュエーションながら、二転三転する本格の秀作。裏にある真相とは。多視点で描かれる「青空に黒雲ひとつ」。背景にあるのは過熱するペットブームか。実はオチの方がうまい。

 自分の「天職」って何だろうと思う。で、この人の天職は結局どっちだ。いずれにしても凄腕には違いない。さしずめ現代版「二十年後」か、「待つ男」。今の境遇をどう伝えるか。こういう問題に対する世間の理解度はまだまだ低い。どうか幸あれ。

 本作の一押し、長編ネタにも使える「ラスト・セッション」。若き天才ピアニストの最後の舞台は、選ばれし聴衆の魂を揺さぶった。憎い。心底奴が憎い。最後にとびっきりのブラックユーモアが控えていた。表題作「二枚舌は極楽へ行く」。本人に問題大ありとはいえ…あまりにも悲惨な最後。こんな殺し方考える蒼井さん、お人が悪い。くくく。

 本作の特徴として、各編は物語として独立しているが、共通の登場人物や事件でビミョー(帯にこう書いてある)に繋がっている点が挙げられる。そのため、ショートショート6編の中には単独で読んでもあまり意味がない、文字通り「繋ぎ」の作品もある。

 具体的には以下の2編。「世界で一つだけの」は、続く「待つ男」のプロローグ。「懐かしい思い出」は、どれと繋がるかは伏せておくが、因果応報ってことかな。

 「値段は五千万円」って高いのか安いのか。そのメニューは遠慮します。某J・W先生もこのくらい倒錯した愛を書いてみろ「私のお気に入り」。某M・H先生もこのくらい哀しき女心を書いてみろ「冷たい水が背筋に」。かわいいぬいぐるみに気をつけろ「ミニモスは見ていた」。限られた長さでこの切れとブラックさ。蒼井上鷹の真骨頂。

 蒼井さん、双葉社さん、短編集第3作はまだですか。



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