有川 浩 03


海の底


2011/02/21

 有川浩さんの自衛隊3部作の「海」編である。「陸」編『塩の街』も十分に大胆な設定だったが、本作の方がはるかにぶっ飛ばしている。

 4月、桜祭りで開放された米軍横須賀基地に、巨大な赤い甲殻類の群れが襲来! 次々と人を食らう巨大甲殻類から逃げ惑う来場者たち。退路を断たれた13人の子どもたちが、停泊していた海上自衛隊の潜水艦『きりしお』に逃げ込んできた。この際、『きりしお』の艦長は巨大甲殻類の餌食となった。無念さを噛み殺す乗組員の夏木と冬原。

 潜水艦の中と外、2つのシーンが並行して進む。艦の外では、神奈川県警警備部の明石と、警察庁警備部の烏丸が実質的に現地対策本部の指揮を執る。2人とも問題児で通っているが、柔軟性もある。それでも、警察の手に負えないことは明白である。多数の重傷者を出しながら、懸命に巨大甲殻類を食い止める神奈川県警機動隊の猛者たち。

 一方、艦内に留まる限り15人は安全だが、換気性が悪い艦内だけにストレスも溜まるし、人間ドラマはかなーり濃密。海自の問題児コンビ夏木と冬原だが、『きりしお』の乗組員としての責任感は強い。そんな2人を、子どもたちも次第に慕っていく。

 ところが、中学3年の圭介にだけは手を焼く。同級生も逆らえないし、高校3年の望と小学6年の翔の姉弟にやたらと反目しているのだが…。本作の読みどころは、圭介の凄まじく歪んだ人格と言い切ってよい。夏木じゃなくても引っ叩いてやりたい。

 さて、救出を待つしかない艦内に対し、外ではいかに政府を動かし、自衛隊を投入させるかが焦点である。問題児烏丸が打った手とは…。詳しくは書けないが、最後まで任務を全うした機動隊員に敬意を表する。巨大甲殻類の襲来なんてことは絵空事だとしても、実際に有事が起きれば日本国政府の対応がもたつくことは目に見えている。

 最後は恋愛模様も織り交ぜてきれいにまとめたかなあ。凄惨な事件を描きながら、警察や自衛隊が示した強い矜持が、読後の爽快感をもたらしているように思う。



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