有川 浩 07


クジラの彼


2011/08/12

 本作はラブコメ短編集だが、全6編とも自衛隊の恋愛模様を描いている。甘い。ベタベタに甘い。それなのに、四十路目前のおっさんが懲りずに手を出してしまった。というのも、本作には『空の中』『海の底』のスピンオフ作品が3編含まれているからである。

 表題作「クジラの彼」には『海の底』の冬原が登場。航海中は連絡も取れない潜水艦乗り。究極の遠距離恋愛がここにある。トラブルが恋の炎を燃え上がらせるのはお約束。一方、「有能な彼女」には夏木が登場。『海の底』の事件後、あらあらら…とだけ書いておくが、かなり印象が変わったなあ。夏木の意外な弱さに共感できる。

 最後に収録された「ファイターパイロットの君」。『空の中』のラストで無理矢理くっついた高巳と光稀のその後の物語。お互いの両親が味方とは限らない。『空の中』ではややチャラい印象も受けた高巳が、包容力のある男であることがわかる。

 スピンオフではない3編も面白い。「ロールアウト」は…恋愛というよりトイレの話か。屈強な自衛官だって生理現象には逆らえないし、環境にはこだわりたい。

 そのものずばりなタイトルの「国防レンアイ」。毎回同僚の女性自衛官のヤケ酒につき合わされる彼が見せた男気。彼女だって、自衛官である以前に女性なのだ。

 個人的な一押し「脱柵エレジー」。実際にこういう例はあるのだろうか? 脱柵者が捕まる度に、あっさりと幻想を打ち砕く清田。それというのも…。清田の若かりし頃のエピソードは、涙なしでは読めまい。男は引きずっちゃうのよねえ…。

 あとがきによると、自衛隊を取材した際に、有川さんは「自衛官も恋愛したり結婚したりするフツーの人間なんだということを書いてやってください」と言われたそうである。この度の東日本大震災で、自衛隊のほぼ半数が被災地支援のため派遣された。恋人や家族に会えなくなった自衛官も少なからずいたことだろう。心から感謝したい。

 ベタベタ度という点では『別冊 図書館戦争I』の方が上かな。



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