有川 浩 12 | ||
ラブコメ今昔 |
『ラブコメ今昔』というはっきりとラブコメを謳ったタイトル。これは手強いか? 実は、『クジラの彼』に続く自衛隊の恋愛模様を描いた作品集である。
表題作「ラブコメ今昔」。習志野空挺部隊の叩き上げ二等陸佐・今村。隊内紙のコラムで恋愛観について語ってほしいという…。見合結婚した今村は、防大出の若き女性二等陸尉・千尋の猛アタックから逃げていたが…。あくまで生真面目な今村の照れ隠しが微笑ましい。ラストは、あららそうきましたか…。
「軍事とオタクと彼」。偶然知り合った歌穂と海自隊員の光隆。当然なかなか会えないが、光隆には歌穂に打ち明けていないことがあった…。屈強な海自隊員にこういう一面があってもいいじゃない。2人のようなシチュエーションは少なくなかっただろう。
「広報官、走る!」。自衛隊が協力したドラマ撮影の段取りに奔走する広報の政屋。局側のADが好みのタイプだった…。ディレクターの王様ぶりに振り回されるが、実際のところテレビの人間ってこんなもんなの? なるほど、政屋じゃなきゃできない任務だ。
「青い衝撃」。航空自衛隊の花形、松島基地所属のブルーインパルス。隊員の人気はちょっとしたアイドル並。それでこんなことが起きるわけである…。本作中では珍しい、隊員の家族目線のエピソード。わかっちゃいるけど、最後はめでたし。
「秘め事」。上官の娘と密かに付き合っていた手島。結婚は意識している。どのタイミングで伝えるべきか…。本作中唯一、あることが起きる。え??? ただ呆然。だが、あとがきにある通り、これは誇張でも何でもない。どうか末永くお幸せに。そうとしか言えない。
最後の「ダンディ・ライオン〜またはラブコメ今昔イマドキ編」は、「ラブコメ今昔」のプロローグ的内容とだけ書いておく。全6編、もちろんラブコメとして楽しめるが、『クジラの彼』と比較すると自衛隊の任務の過酷さにもスポットを当てている印象を受ける。
文庫版あとがきを読めばわかる。有川さんは単にネタで自衛隊を扱ったわけではない。