有川 浩 15


植物図鑑


2013/01/21

 恋愛物らしいとは聞いていたが、予想以上にベタベタの甘甘でした、はっはっは。

 職場の飲み会を終えたさやかが、深夜に帰宅すると、ゴミ捨て場に男が行き倒れていた。その男・イツキを、捨て犬でも拾う感覚で自宅に住ませるさやか。おいおい、このご時世になんて無防備な…というか通報しないのかよっ!!!

 ところが、このイツキは家事万能なスーパー家政夫なのであった。奇妙な同居生活が始まり、帰宅すれば夕食ができている生活にすっかり慣れてしまったさやか。1人暮らしでは気が張っていたさやかも、つい仕事の泣き言を漏らす。

 さて、イツキには植物に詳しいという顔があった。タイトルが『植物図鑑』というのも、なるほど納得。ただし、イツキの興味の対象は園芸品種ではない。本作で扱われるのは、すべてその辺に生えている草花なのだ。雑草と言うなかれ。雑草という名の草はない。草にはすべて名前があります。と、昭和天皇は仰ったそうである。

 週末には2人で草花を見に出かける。何て健全でお金がかからないデートなんだ! 帰宅すると、採集してきた草花を食材にして夕食を作る。なんて実用的なんだ!! そして何てヘルシーな食事なんだあっ!!! 僕が食べたことがあるのはフキ、フキノトウ、ワラビくらいだが、さりげなく身近な植物の解説をされたらキュンとくるだろうねえ。

 終盤まではほぼ同じパターンの繰り返しだが、読んでいてまったく飽きない。大変ためになるので、もっと読みたかったくらいである。恋愛要素はそれほど濃くないのかなあと思っていたら、誤解によるトラブルもあったり…あらあらら…。まあ大目に見ましょう。

 そして終盤に至り…この先は読んでくださいとしか言えません。本作の突っ込みどころを挙げたらきりがない。ある意味『図書館戦争』シリーズ以上だろう。そもそも2人の出会いからしてありえない。それでも思う。この作品に出会えてよかった。

 本編終了後、カーテンコールとして掲載された2編「ゴゴサンジ」「午後3時」も憎いねえ。これで完結だとしたらもったいないシリーズだ。でも、完結で正しい気もするな。



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