有川 浩 24


三匹のおっさん ふたたび


2012/04/10

 続編をやらせてもらえるとしたら貴子の話から始めようと思っていました。と、あとがきにはある。文藝春秋の計算通り入手した、『三匹のおっさん』の続編である。

 貴子とはキヨの息子である健児の嫁、そして祐希の母である。前作を読んだ方なら、貴子にいい印象は抱いていないだろう。第一話は、そんな貴子が第一歩を踏み出す話である。一念発起してパートとして働き始めた貴子。なかなかどうして頑張るではないか。

 三匹は締めるところはしっかり締めるが、三匹と孫に挟まれたパパママ世代にスポットを当てた話が多いのが本作の大きな特徴である。前作は是非読んでおきたい。

 第二話。シゲが通う書店は、万引き被害に悩まされていた。三匹は早速パトロールを買って出る。某大手古書店チェーンが万引きの温床として批判を浴びたのは記憶に新しい。呆れた親の理屈に暗澹たる気分になる。店主の心遣いが、少しは身に染みたか。

 第三話。祐希とあの子の交際に亀裂が入った訳は…。ノリの家庭の話とだけ書いておこう。やんちゃな見た目と裏腹に、祐希の受験生ぶりは真面目。当然だよねえ。第四話。今どきの若者は…とよく言うけれど、じゃあ大人はどうなのだという話。困った大人が相手では、無敵の三匹でも手を焼く。言葉遣いは少々乱暴でも、祐希はできた若者である。

 第五話。シゲの後を継いで『酔いどれ鯨』を切り盛りする息子の康生。キヨやノリはよくできた息子だといつも褒める。しかし、少年時代には…。康生と健児の意外な関係が明かされる。様々な障害にめげず、祭りの復活に奔走する息子世代に拍手。

 第六話。三匹にライバル出現? 町内で続いていた不審火騒ぎ。彼らだって悪気があったわけではない。偽三匹と言ってしまうのはちょっと気の毒か。しかし、ほどほどにしておかないと。その点、元祖三匹は弁えているし、懐が深い。いや、ノリだけか。

 季節は移ろい、それぞれに新しい一歩を踏み出す愛すべき面々。この季節に相応しい心憎い締めだ。ボーナストラックとして最後に収録された「好きだよと言えずに初恋は、」はシリーズと関係ないが、これまたこの季節に相応しい甘くほろ苦い作品でした。



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