綾辻行人 02


水車館の殺人


2001/02/09

 読み終えてから思ったのだが、本作はある映画を連想させる。本作における水車館の主人、藤沼紀一。そして、映画におけるある人物。二人の共通点を考えれば、即座に真相に至ったはずなのだが、もちろん僕は騙された。古い映画とはいえ、タイトルを挙げてしまうとわかる人にはわかると思うので、最後にヒントを載せておこう。読みたくない方はどうか読まないように。

 その名が示すとおり、三つの水車を持つ異形の館、水車館。ここで一年前に起きた、ある事件。そして現在、再び惨劇の幕が開く…。

 本作は、現在と一年前が交互に語られるという構成になっている。現在の事件と同時に、一年前の事件の真相も解き明かされるという凝った作りになっている。

 どちらかといえば、過去の事件の謎がメインである。現在の事件は犯行が少々やっつけ仕事気味だが、それは贅沢な注文かな。真犯人が犯行に至った経緯は興味深い。なるほど、これは致命的だよなあ。現在と過去が見事にリンクし、本格としての論理性は申し分ない。ただ、驚きという点では『十角館の殺人』の力技に一歩譲る。

 ラストシーンは、本格としては不要かもしれない。本格の論理性とは相反する、割り切れぬ謎。しかし、僕はここに綾辻作品の、作家綾辻行人の強烈な個性を感じる。

 いわゆる新本格のムーブメントに乗って、多くの本格の書き手が現れたが、なぜ綾辻行人だけは特別な存在であり得たのか。ブームの火付け役であり第一人者であることはもちろんだが、それだけではないだろう。到底一言では語り尽くせないが、このラストシーンに、その理由の一端があるように思う。

 なお、映画におけるある人物は、奇しくも藤沼紀一同様に姓に「沼」を含む。〇〇一〇〇シリーズの某作品とだけ言っておこう。これ以上は書けません。



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